artscapeレビュー

トラック

2012年10月15日号

会期:2012/05/12~2012/09/16

S.M.A.K.周辺+ゲント・シントピータース駅[ゲント(ベルギー)]

朝早くカッセルを出発、フランクフルト、ブリュッセルで乗り換えて午後ゲントに到着。ホテルにチェックインしてさっそくS.M.A.K.(現代美術館)へ。ゲント市内の37カ所につくられた作品を見て歩く展覧会「トラック」はここからスタートする。その前に館内に展示されていたマリオ・メルツやダニエル・ビュレンらの作品を見る。はて、これはなんの企画展だろうと思ったら「シャンブル・ダミ」のコレクション展ではないか! 「シャンブル・ダミ(友達の部屋)」とは1986年、ヤン・フートがゲント市内の約50軒の民家に作品を設置した画期的な展覧会で、その後のミュンスター彫刻プロジェクトや越後妻有アートトリエンナーレなど野外展の先駆となった伝説的な展覧会だ。「トラック」は当時16歳でこの展覧会を体験したフィリップ・ファン・カウテレンがキュレーターとなって企画したという。つまりS.M.A.Kは「トラック」の源流として「シャンブル・ダミ」を回顧しているのだ。さて、地図を片手に美術館を出ると、公園に落ち葉を展示した陳列ケースが置かれている。エルムグリーン&ドラッグセットの作品だが、落ち葉は金属製らしい。Leo Copersは芝生に数十基の墓を設置。墓碑銘は「MoMA」「ルーヴル美術館」などすべて美術館の名前になっている。なるほど、美術館は墓場だといわれるからな。日本の美術館を探したら2基あった。森美術館と奈良国立博物館……どういう選択だ? そこから5分ほど歩いてシント・ピータース駅に行くと、古い時計塔が工事中だ。と思ったらこれが西野達の作品(西野は数年おきに名前を変え、今回はTazu Rousで参加)。円筒形の塔の回りに足場を組み、最上階の巨大な時計を囲むようにコジャレた部屋をつくって、「ホテルゲント」として泊まれるようにしてある。日本なら重要文化財級の建物のてっぺんにこんなラブホまがいの宿泊施設をつくるなんて、とても考えられない。ゲント市もよく許可したもんだと感心するわ。じつは駅周辺は工事中なので、頭の固い人たちには「時計塔は修復中」とかごまかしているのかもしれない。でもこれが人気で新聞や雑誌の一面に載り、会期終了後もしばらく「営業」を続けることになったというからごまかしようがない。そもそもゲントは中世から栄え、15世紀にファン・エイクが活躍したことで知られる古都。そんな歴史ある街だからこそ最先端のアートも「ぶつけがい」があるというものだ。


Tazu Rous, Hotel Gent

2012/09/13(木)(村田真)

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