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田代一倫「はまゆりの頃に 2012年夏」

2012年10月15日号

会期:2012/08/23~2012/09/09

photographers’ gallery/ KULA PHOTO GALLERY[東京都]

田代一倫は東日本大震災直後の2011年4月から、被災地とその周辺の地域の人たちのポートレートを撮影しはじめた。「はまゆりの咲く頃に」と名づけられたそのシリーズは、春、夏、秋、冬と季節を追って撮影が続けられ、そのたびに手づくりのポートフォリオブックとして編集され、写真展が開催されてきた。今回の「はまゆりの頃に 2012年夏」で、ポートフォリオブックは6冊目になり、延べ800人以上の人を撮影してきたという。
田代はとりたてて特別な撮り方をしているわけではない。被写体になってくれそうな人に声をかけ、カメラに正対してもらって、周囲の環境がよくわかるような距離を保ってシャッターを切る。最初の頃は、その難の変哲もないアプローチの仕方がやや中途半端に思えた。だが、これだけの量を見続けていると、むしろ中間距離を保つことの持つ意味が、じわじわと効果を発揮しているように思えてくる。ポートフォリオブックの写真一枚一枚に記載された丁寧なコメントも含めて、田代のジャーナリスティックでもアーティスティックでもない視点の取り方が、被災地の人々の状況とその微妙な変質をしっかりと捉え切っているのがわかってくるのだ。
今回、田代は今まで撮影するのをためらっていった仙台市の歓楽街、国分町の人々のポートレートを撮影し、 KULA PHOTO GALLERYでまとめて展示した。震災直後には「復興バブル」でにぎわっているという報道もあって、「遠い場所」と感じていたのだが、「被災者の気持ちが少しずつ変化」してきているのを感じて、あえて国分町にカメラを向けることにしたのだ。結果として、被災地の「いま」がよりクリアーに浮かび上がってくるいい展示になったと思う。たしかに、東日本大震災をきっかけにして始まった仕事だが、それ以上にこの時代の日本人のポートレートとしての厚みを持ちはじめているのではないだろうか。撮影は「2013年春」、つまり震災から2年後まで続けられる予定だという。ぜひ、やり遂げてほしいものだ。

2012/09/02(日)(飯沢耕太郎)

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