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これも印刷?!──ふしぎな特殊印刷の世界

2012年11月01日号

会期:2012/09/04~2012/11/11

印刷博物館P&Pギャラリー[東京都]

PCとプリンタの普及で、印刷はとても手近な存在になった。iPadなどのタブレットPC、楽天のkobo、そして先頃アマゾンKindleの発売も発表されて、活字文化の世界は大きく変わろうとしているように見える。しかし活字だけが印刷ではない。まだまだプロフェッショナルな領域は存在する。それが「特殊印刷」の世界である。この展示では、私たちがふだん意識している印刷とはまた異なる印刷技術を紹介するもの。会場には《キラキラピカピカ》《ひかる》《とびだす》《デコボコ・つるつる・ふさふさ・ざらざら》といった、視覚だけではなく触感なども表わす言葉が記されたパネルが下がる。キラキラの代表は箔押し印刷。接着剤をコートした金属の薄い箔を熱で対象物に圧着することで、紙の上にも金属のような質感を印刷することができる。デコボコの代表は紙自体に凹凸をつくるエンボス加工であるが、発泡インキやUVインキを用いることで、さらに細かくはっきりとした凹凸が可能になる。発泡インキはただ盛り上がるばかりではなく、フェルトのような質感も実現できるし、点字を印刷することも可能だ。金属をエッチング処理したような質感を実現するリオトーンインキは、化粧品のパッケージなどに高級感を演出する。温度によって色が変わる印刷、香る印刷、光る印刷、まるで木のパネルのように見える木目印刷など、多種多様な技術が実物とともに解説されている。印刷のプロフェッショナルにはさほど珍しいものではないかも知れないが、まさしく「これも印刷?!」と声を上げてしまうものもある。素人にとっては驚き、そしてデザイナーにとっては新たな表現の可能性を見せてくれる展覧会である。[新川徳彦]

2012/10/19(金)(SYNK)

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