2018年06月15日号
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artscapeレビュー

篠山紀信「写真力」

2012年11月15日号

会期:2012/10/03~2012/12/24

東京オペラシティ アートギャラリー[東京都]

篠山紀信の写真展に「写真力」という言葉はぴったりしている。まさに彼こそ1960年代から半世紀にわたって、写真の荒ぶるパワーを十全に統御しつつ、打ち出し続けてきた写真家だからだ。
篠山の「写真力」は、主に固有名詞化された被写体に対して発揮される。しかも、その彼あるいは彼女の名前や顔やキャラクターが社会全体に広く行き渡り、輝きを発していればいるほど、その存在を全身で受け止め、投げ返す力業は神がかったものになる。今回の東京オペラシティアートギャラリーでの展示は「GOD」「STAR」「SPECTACLE」「BODY」「ACCIDENTS」の5つのパートに分かれており、東日本大震災の被災者たちを撮影した「ACCIDENTS」以外の部屋は、著名なキャラクターのオンパレードだ。その絢爛豪華ぶりは、美空ひばり、三島由紀夫、バルテュス、武満徹、ジョン・レノン、夏目雅子、大原麗子、勝新太郎、きんさん・ぎんさん、渥美清の巨大な「遺影」がずらりと並んだ「GOD」の部屋を見るだけでもよくわかる。
篠山はそれらのスターたちを、視覚的な記号として社会に流通させていく術に長けている。彼は大衆があらかじめ抱いているイコンとしての像におおむね沿う形で、だがそれらを少しだけずらしたり、増幅させたりして写真化していく。時代の気分をすくい取りつつ、その半歩先のテイストを的確に打ち出していく勘所のよさを、篠山は1960年代のデビュー時から現在までずっと保ち続けてきた。それだけでも特筆すべきものと言えるだろう。
だが、その記号化のプロセスは、主に雑誌や写真集などの印刷媒体で威力を発揮するものであり、美術館のような会場での展示には馴染まないのではないか。観客はジョン・レノンや山口百恵や宮沢りえやミッキーマウスが「そこにいる(いた)」ことを確認すれば、それだけで満足してしまう。ゆえにギャラリーや美術館のスペースで味わうべき視覚的体験としては、やや物足りないものになる。気づいたら、広い会場をあっという間に巡り終えてしまっていた。

2012/10/11(木)(飯沢耕太郎)

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