artscapeレビュー

向雲太郎『アホとロマンの皮袋』

2013年01月15日号

会期:2012/12/21~2012/12/22

中野テルプシコール[東京都]

今年、大駱駝艦を退団した向雲太郎(以下、向と略称)が、退団後上演した初のソロ公演。こたつとその真上に吊った流木みたいなクリスマスツリー。そこでしばしごろごろしていた向はあっと我に返り、あわててしたのは白塗りすることだった。本作に向が用意した最大の仕掛けは、この白塗りをしてその後落とすというもので、向のダンサーとしての実存を確認するものであると同時に、白塗りの謎に光を当てる趣向となっていた。白く塗っていくと肌は生々しさを奪われる分、艶めかしさを帯びてくる。「塗る」という仕方で肌は一種の衣裳を纏うのだ。また素肌でギョロリと目を剥いても出ない効果が白塗りにはある。そうか、コントラストをつけ、小さい動きを際立たせ異形の存在を造形する白塗りは、舞踏を漫画チックにする力だったのだ。その漫画性は白塗りを「落とす」とやはり消えてしまう。「塗る」と「落とす」という仕掛けは、マジックの種明かしのような、禁断のネタだった。それにしても、向は器用なダンサーだ。舞踏という枠にとらわれない、ダイナミックで軽快な動きには、ときにヒップホップダンスのテクニックとの類似性まで感じさせられる。獅子舞のように、こたつの布団を被って頭に白い骸骨を載せて踊ったときなどは、大道芸的なユーモアも感じさせて観客を笑わせた。大駱駝艦で培ったものをベースに、新しい要素を取り込みながら、自分らしいダンスを模索する向。さて、これからどこに行こう。いつか「アホ」と「ロマン」が詰まった皮袋をなんども裏返しにしていくような、奇想天外に状況の展開する作品が見てみたいものだ。

2012/12/21(金)(木村覚)

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