artscapeレビュー

須田悦弘 展

2013年01月15日号

会期:2012/10/30~2012/12/16

千葉市美術館[千葉県]

花の彫刻で知られる須田の個展。彼の作品のおもしろさは、極薄の葉っぱや花びらを虫食い穴までそっくり再現する繊細なリアリズムにあるが、それだけならちょっと腕の立つ職人でもできる。彼にとってより重要なのは、それをどこに置くか、どのように見せるかにあるだろう。彫刻そのものは小さく繊細なため、美術館のような大空間に展示するときには、目立たせると同時に作品に触れさせないようにもしなければならず、そのふたつの相反する条件を満足させるための仕掛け(インスタレーション)が必要になる。そこが最大の見せどころだ。最初の展示室にはいくつかの小屋を設け、そのなかで見せていたが、少し慣れてきたころに壁に直接飾り、最後の展示室はとうとう空っぽ。と思ったら、よく見ると床板のあいだや陳列ケースの隅っこなどにひっそりと草花を咲かせていることに気づくという、心憎い演出だ。したがって観客は作品を鑑賞する前に作品のありかを探索しなければならず、それを楽しむのが須田作品に近づく第一歩となる。その下の階では「須田悦弘による江戸の美」と題し、須田自身が千葉市美のコレクションから選んだ浮世絵などを展示しているが、ここにもちゃっかり須田の作品が陳列ケース内に乱入している。思わず笑ったのが、数粒の米。木でできたコメ。じつは須田の彫刻のいちばんのおもしろさは、植物を植物素材で彫るというトートロジカルなしぐさにあると思う。比べるとしたら、木で石と台座を彫った橋本平八の《石に就いて》か。

2012/12/02(日)(村田真)

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