2018年12月01日号
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artscapeレビュー

今井智己「Semicircle Law」

2013年02月15日号

会期:2013/01/26~2013/02/16

タカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルム[東京都]

今井智己の「Semicircle Law」は、「震災後の写真」のひとつの形を示すものと言える。彼は2011年4月から2012年12月まで、福島第一原子力発電所から30km以内の複数の場所で撮影してきた。言うまでもなく、原発から半径20km圏内は立ち入り禁止の措置がとられている。今井が写したのはあまり特徴のない山並みや、森の木立や、鉄塔や建物が点在する風景だが、カメラは常に原発の方向に向いている。実際に原発の建屋らしいものが、はるか彼方に遠望できる写真もある。
今井の意図は明確であり、その方法論も的確で狂いがない。だが、展示を見て、さらにMatch and Companyから刊行された25点をおさめた写真集のページを繰っていると、どこか割り切れない思いが湧き上がってくる。このようなシリーズの場合、観客は今井のコンセプトに導かれて、ついつい画面の中で原発の所在を探してしまう。それが見つかれば安心するし、見つからなくとも「この風景のどこかにそれはあるのだ」と納得して、それ以上の想像力をシャットアウトしてしまいかねない。もともと今井の風景写真が孕んでいた、多義的な、しかも研ぎ澄まされた画面構成の魅力が、今回のシリーズではあまり伝わってこないように感じた。
このようなシリーズは、むしろ原発事故とは関係なく撮影されていた写真と、何らかの形で関係づけながら見せた方がいいのではないだろうか。また、これで撮影は完了というのではなく、もう少し粘り強く撮り続けることで、何か違った見え方が生まれてくる可能性もあるような気がする。

2013/01/29(火)(飯沢耕太郎)

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