artscapeレビュー

野村佐紀子「NUDE / A ROOM / FLOWERS」

2013年03月15日号

会期:2013/02/08~2013/03/24

BLD GALLERY[東京都]

野村佐紀子の個展デビューは1993年。ということは、もう20年近くコンスタントに写真展を開催し、写真集を刊行し続けているわけで、そのことにちょっと驚いてしまう。というのは、彼女の最初の頃の作品はほとんどが室内で撮影されたモノクロームの男性ヌードで、被写体や作風の広がりをあまり予想できなかったからだ。ところが、野村の小柄な細身の身体に秘められたエネルギーの埋蔵量は、当初の予想をはるかに超えたものだったようだ。しぶとく、淡々と写真を撮り続け、しっかりと自分のポジションを確立していった。今回の展示と、同名の写真集の刊行(Match & Company)は、その意味でひとつの区切りをつけるものと言えるのではないだろうか。
かなり大きめのサイズに引き伸ばされて会場に並んでいる56点の作品を見ていると、いつのまにか野村の被写体の幅が広がっていることに気がつく。トレードマークと言える男性ヌードだけでなく、女性や子どもの写真もあるし、室内の情景や風景の比率も増してきている。モノクロームの作品のなかに、カラープリントもそれほど違和感なく溶け込んでいる。かなりバラバラな作品群が、すーっとつながるように目に飛び込んでくるのは、それらを見つめ、撮影していく野村の視点が安定しているからだろう。闇の中に沈み込んでいこうとする被写体を凝視し、ふっと息を吐くようにシャッターを切る。緊張と弛緩とを行き来するその呼吸が、なかなか真似のできない達人の域に届きつつあるように思う。そこに写り込んでくるのは、生の世界がいつのまにか死の領域へと滑り込んでいくような、曖昧な、だがどこか懐かしく既視感のある時空の気配だ。

2013/02/12(火)(飯沢耕太郎)

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