artscapeレビュー

『ハーブ&ドロシー ふたりからの贈りもの』

2013年03月15日号

「小さな大コレクター」として話題を呼んだ映画『ハーブ&ドロシー』の続編。前回は、狭いアパート暮らしのハーブとドロシー夫妻がコツコツと現代美術作品を集め、2千点以上に増えたのでワシントン・ナショナルギャラリーに寄贈したものの、その後もさらにコレクションが増え続けていくというおとぎ話のようなドキュメンタリーだった。今回は、そのナショナルギャラリーが1館では全作品を受け入れられず、全米50州の美術館に50点ずつ分配するという「50×50」プロジェクトを実施し、夫妻が各美術館を訪れるというストーリー。前回は、いかにもアウトサイダー的な風貌と嗜好をもつ夫妻の突出したキャラと、高尚で計算高いアートワールドとの対比や、ミニマル・コンセプチュアルに偏ったおびただしい量のコレクションと、カメやネコも飼ってる狭いアパートとのギャップを映し出すだけで、つまり素材の新奇さだけで十分に楽しめたが、今回はそこに「50×50」という立体的な骨組みが与えられたため、映画自体にも構造的に奥行きが出てきて見ごたえがあった。この続編の編集中ハーブが亡くなったため、急遽方向転換してつくり直し、図らずも完結編となってしまったという。ところで、映画のなかの話だが、夫妻がナショナルギャラリーに寄贈した理由のひとつは、コレクションが分散する心配がないからだったはず。それを50州に分散させてしまうというのはいかがなものか。そもそも彼らのコレクションの約8割は紙の作品(ドローイングや水彩や版画など)で、油絵や立体は2割にすぎず、それも小品に限られる。これらにどれほどの価値があるかは知らないが、少なくとも「ミュージアムピース」と呼べないだろう。しかもそのうち価値の高いものはナショナルギャラリーが取っといて、残りを50州に分けた(厄介払いした?)と陰口をたたく人もいる。まあそこまでは詮索すまい。3月30日より新宿ピカデリー東京都写真美術館などでロードショー。

公式ウェブサイト=http://www.herbanddorothy.com/jp/



ハーブ&ドロシー ふたりからの贈りもの 予告編

2013/02/01(金)(村田真)

2013年03月15日号の
artscapeレビュー