artscapeレビュー

三田村光土里「夜明けまえ」

2013年04月15日号

会期:2013/02/16~2013/03/16

GALLERY TERRA TOKYO[東京都]

三田村光土里は内外のギャラリーや美術館で、記憶を喚起し、攪乱する写真の力を巧みに利用したインスタレーション作品を発表してきた。この「夜明けまえ」のシリーズは、2011年に制作され、水戸芸術館現代美術センターで開催された「クワイエット・アテンションズ 彼女からの出発」展で発表された。ところが、東日本大震災のため、展示が数週間で中止になってしまった。その再編集版が今回の展覧会である。
イタリアの小都市、プラートの広場にあるバッキーノ(バッカスの子ども)の噴水彫刻。その愛らしくも哀しげな顔のあたりを、「夜明けまえ」の薄闇の中でクローズアップで撮影し続けた映像作品を中心に、本、鏡、靴、バッグ、砂時計などが、床に散乱している。壁には、やはり闇に半ば沈み込んだホテルの部屋などで撮影された、モノクロームの写真作品が並ぶ。全体は黒で統一され、サティのピアノ曲をアレンジした音楽が流れている。
ギャラリーの空間そのものが、三田村が自らの記憶を甦らせるための儀式的な祭壇のような場所に変質させられているといってもよい。そのもくろみは、かなりうまくいっているのではないだろうか。観客もこのインスタレーションに、自分たちの記憶を重ね合わせることができそうだ。それは時に息苦しく、痛みをともなうものだが、どこか甘美でエロティックな感情を呼び覚まされるような体験でもある。

2013/03/01(金)(飯沢耕太郎)

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