artscapeレビュー

『なぜデザインが必要なのか──世界を変えるイノベーションの最前線』

2013年05月01日号

著者:エレン・ラプトン他
訳者:北村陽子
出版社:英治出版
発行日:2012年1月24日
価格:2,400円+税
判型:B5変型、208頁


本書は、2010年にニューヨークのクーパー・ヒューイット国立デザインミュージアムで開催された「なぜ今デザインなのか?(Why Design Now?)」展をもとに刊行されたもの。同館は2000年にデザイン・トリエンナーレを開始し、当該展は第4弾にあたる。この回は初めて、アメリカのみならず、全世界44カ国から集めた134の先進的なデザインを紹介している。テーマは、「エネルギー、移動性、コミュニティ、素材、豊かさ、健康、コミュニケーション、シンプリシティ」の八つに設定される。これらの主題を貫く思想は、デザインはいかにしてよりよき社会の形成に貢献をしていけるかという問いである。例えば、「エネルギー」の章では、自給自足型の未来都市のデザインから海の波力で電力をつくるシステムまで、環境における持続可能性を追求するデザイン・プロジェクトの数々をみることができる。「移動性」では、人とモノの移動が扱われるが、リサイクルできる軽量素材を用いつつ高速・高エネルギー効率に配慮した次世代高速鉄道AGVなど、都市の交通・輸送システムの問題解決をするデザインが提示される。「コミュニティ」では、地元住民だけでなく弱者のためになにができるかについて問うた建築、「素材」では〈リデュース、リユース、リサイクル〉を志向する新素材が紹介されている。個人と社会の健やかさに資する「豊かさ」と「健康」と「コミュニケーション」、そしてモノの外観についてだけでなくデザイン・プロセスの簡素化までをも含む「シンプリシティ」を実現するデザイン。「デザイン」とは、たんに製品の完成形やモノの外観だけを指すのではない。同書は、社会文化、政治経済、技術、倫理、美的価値すべてに関わる「デザイン思考」をつまびらかにしようとする。本展が端的に示すとおり、デザインとは本来的に「未来」を志向するものなのだ。[竹内有子]

2013/04/12(金)(SYNK)

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