artscapeレビュー

富山妙子「現代への黙示──9.11と3.11」

2013年05月15日号

会期:2013/04/11~2013/05/19

東京アートミュージアム[東京都]

富山さんの文章は読んだことあるけど、作品をまとめて見るのはこれが初めてのこと。もう90歳を超えているんですね。炭坑問題をはじめ、従軍慰安婦、戦争責任、9.11同時多発テロ、そして3.11大震災による原発事故まで、一貫して社会問題をテーマに描いてきた。「蛭子と傀儡子・旅芸人の物語」シリーズは、9.11に端を発する戦争と劇場型社会を批判した油彩やコラージュ。とくに油彩は魚やクラゲの漂う海中のイメージで、そこにエビスさまや中国の仮面などが顔をのぞかせなんとも不気味。ちょっとジブリのアニメを思わせるシュールな世界だ。「現代の黙示・震災と原発」シリーズは3.11以降の騒動を表わしたもの。ここでは風神雷神やIC回路を比喩的に用いるほか、上半分が吹き飛んだ原子炉建屋をキーファーばりに描いた油彩もある。ほかにもチリの軍事クーデターや光州事件を扱ったシリーズも出ていたが、年代が近いのか山下菊二の「ルポルタージュ絵画」を彷彿させる作品もあった。もともとシュルレアリスムの影響が強いようだが、それを社会的テーマに結びつけることで独自のスタイルを生み出したのだろう。いま見れば、キッチュでアナクロなその画風がとても新鮮に映る。それにしてもコンクリート打ちっぱなしのこの「アートミュージアム」、こうした作品展示にはまったくふさわしくない。

2013/04/26(金)(村田真)

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