artscapeレビュー

瀬戸内国際芸術祭2013 春(小豆島)

2013年05月15日号

会期:2013/03/20~2013/04/21

小豆島[香川県]

せっかくなのでと、干潮時に砂の道が現われて島がつながるという人気観光スポットの「エンジェルロード」を早朝見に行き、それから「迷路のまち」として知られている土庄本町へ向かった。ここは小さな路地がたくさんあるのだが、中世、海賊の侵入や南北朝時代の戦乱に備えて形成されたと伝えられているそうで、入り組んだ道を散策するだけでも楽しい。元タバコ店の2階建ての木造家屋をまるごと迷路に仕立てた《迷路のまち~変幻自在の路地空間~》は「目」というアーティストチームによる作品。昔懐かしい「タバコ屋さん」の小窓の部分から靴を脱いで中へ入るのだが、2階の小部屋、居間、台所など、各部屋やそこへ通じる場所に「あれ?!」と驚くような仕掛けが隠れていた。元々ここに住んでいた人の家具や家電などもそのまま使われていたのだろうか? 染み付いた生活の匂いがする雑然とした家の中を歩き回っていると、他所のお宅に勝手に上がりこんでしまったような気分にもなってスリリングだ。多彩なからくりも愉快。迷路のまちにふさわしいユニークな作品だった。また、三つの空家をギャラリースペースに、土庄本町でアート活動を行なっている「MeiPAM」による企画展プログラムも近くで開催されていた。中山地区の谷間へワン・ウェンチーの《小豆島の光》も再び見に行く。周囲の棚田の風景にも馴染んで、夜に見たのとはまったく異なる印象の佇まいにまた吃驚。昼間はドーム内部も鑑賞できるこの作品、訪れていた多くの人が敷き詰められた竹の床の上でくつろいでいたのだが、実際に中は涼しく、竹の編み目から射し込む光も気持ちのいい空間であった。ほかに、杉桶が並ぶ発酵蔵をガラス越しに見学できるマルキン 油の 油蔵、ビートたけしとヤノベケンジのコラボレーションで、頭部に斧が刺さった全長8メートルの怪物が井戸から現われる《ANGER from the Bottom》なども見てまわる。私自身はこうして作品鑑賞を満喫したのだが、気になったのは、最後に出会った地元の人たちの反応。その人たちは「興味がないわけではないが、なにかよくわからないイベントが突然始まった感があり、なにかよくわからないままに遠巻きに傍観している状態だ」と話してくれた。それはやはり残念。切実な課題はほかにもあるだろうが、今年の夏期や秋期の開催、またその後の開催にあたって少しずつ改善されていくことを願う。


ワン・ウェンチー(王文志)《小豆島の光》


《迷路のまち~変幻自在の路地空間~》入口

2013/04/13(土)(酒井千穂)

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