artscapeレビュー

平野正樹「MONEY」

2013年05月15日号

会期:2013/04/04~2013/04/16

PROMO-ARTE[東京都]

平野正樹は1991~93年に社会主義政権崩壊後のロシア、東ベルリン、カンボジアを撮影した「祭りの後(AFTER THE FESTIVAL)」を皮切りに、「人間の行方(DOWN THE ROAD)」と題する連作を発表し始めた。今回、表参道のギャラリーPROMO-ARTEで展示された新作「MONEY」も、その一環として制作されたものだが、これまでの彼の作品とは一線を画するものになっていると思う。平野の作品は、代表作と言える内戦後のサラエボの壁に残る弾痕を撮影した「HOLES」のように、自然環境や政治体制崩壊後の人間たちの生の痕跡を捉えたものが多かった。ところが今回「人間の行方シリーズ 沈黙の価値」という副題を添えて発表された「MONEY」では、いよいよ社会システムそのものがテーマになってきている。
会場にはお札、株券、証券、債券証書の類をスキャナーにかけて画像データをとり、大きく引き伸ばしたプリントが並ぶ。紙の皺や折り目や破れ目もそのまま複写されているので、生々しい物質感がそのまま写り込んでいる。背景となる画像のパターンも、スキャニングしたデータを加工してつくっているのだという。2008年の「リーマン・ショック」の引き金となったリーマン・ブラザーズの証券、1917年のロシア革命で紙屑になった「ロシア帝国債券」、内戦や財政赤字によるハイパー・インフレで数字のゼロの数が増えてしまった「百万トルコリラ」や「百万ザイール」の紙幣──平野が題材にしているのは、われわれの経済活動の信頼性の根拠となっている「MONEY」のシステムが、いかに脆弱なものであるのかをまざまざとさし示すサンプルばかりだ。
ストレートな複写であるにもかかわらず、そこには「MONEY」の背後にうごめくグロテスクな欲望や情念が幻影のように浮かび上がってくる気がして、心底ぞっとしてしまう。ドキュメンタリー写真の新たな切り口、方法論を提示する意欲作と言えるだろう。

2013/04/04(木)(飯沢耕太郎)

2013年05月15日号の
artscapeレビュー