2019年02月15日号
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artscapeレビュー

川口珠生 展「カラフルな疎外感」

2013年06月15日号

会期:2013/04/30~2013/05/05

アートスペース虹[京都府]

ギャラリーの扉を開けると、透明ビニールのシートでぐるりと囲んだ狭い空間の内側で、工場用作業着のような真っ白なコスチュームを身につけた作家が、まるで空中にチョウを描いているようだった。これまでも空間自体をキャンバスに見立てた作品を発表してきた川口珠生。今回は透明のビニールに描かれたチョウが会期中に少しずつ増えていくというパフォーマンスで、時間という定まらない流動のなかにある存在やその曖昧な性質にアプローチしていた。ここで真っ先に目にはいるのはホワイトキューブに舞うような、色とりどりのチョウの鮮やかさなのだが、ギャラリー空間の奥に目をやると、なんとなく既視感を覚えるものの匿名性を帯びた人物の図像や、カラフルな線の戯れにも気がつく。わずかな風にもゆらりと揺れ、はっきりとは全体像の掴めない透明のレイヤーの奥のそれらのイメージは、いま自分が立っている場所や時間ではない過去の時空を思わせるのだが、かといって目の前を“飛んでいる”多数のチョウもまた所在なく心もとないイメージで、見ている私自身が少しだけ地面から浮いているような気分。実際に見えているけれど実感がともなわない感覚、倒錯感、それが川口の言う疎外感ということだろうか。それにしても儚げな雰囲気の表現が美しい個展だった。


作品(部分)。左はチョウを描く作家

2013/05/05(日)(酒井千穂)

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