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海軍記録画──絵画によりたどる海軍の歴史[後期展]

2013年06月15日号

会期:2013/04/10~2013/06/10

大和ミュージアム[広島県]

朝6時発のぞみの始発に飛び乗り、広島で乗り換えて10時半ごろ呉に到着。呉市海事歴史科学館が「大和ミュージアム」と呼ばれるのは、かつて軍港として栄えた呉で建造された戦艦大和の10分の1の模型が目玉だからだ。10分の1といっても26メートル以上あるから小型船よりずっと大きい。ともあれその大和ミュージアムが企画した戦争記録画の展覧会。昨年度は「前期」として幕末の黒船来航から日清、日露を経て日中戦争までの戦争画を集めたが、今回は太平洋戦争の海軍記録画に焦点を当てている。宮本三郎《落下傘部隊の活躍》、小野具定《第二ブーゲンビル沖航空戦》、川端龍子《水雷神》といった有名作から、藤田嗣治のエスキース的な小品、小磯良平や中村研一らのスケッチ、戦意高揚のポスターと原画まで約40点の展示。まず気づくのは、大作が少ないこと。戦争画は日本では珍しい歴史画なので、画家たちもがんばって幅3メートルも4メートルもある大作を手がけたが、その大半は戦後アメリカ軍に接収され、現在は東京国立近代美術館に収蔵されている。ところが、なぜか出品作品は海上自衛隊や船の科学館、茨城県近代美術館、福富太郎コレクションなどから借り、東近からは1点も借りていない。会場が広くないから出品要請しなかったのか、あるいは東近から断られたのか。これと関係するのかどうかわからないが、作品前の解説を読むと描かれた戦闘については詳述されているものの、作品や作者についてはサラッと流している。つまり戦争画の芸術的価値よりも記録的価値に重点が置かれているのだ。これはやはり美術館ではなく、海事歴史科学館が企画したものだからだろう。だから東近とは距離をとったのかもしれない。その解説だが、作品の手前にしつらえた台上に記されているため、観客と作品との距離が1メートルほど空いている。見方を変えれば、観客が手を伸ばしても作品に届かないように解説台をフェンスにしているのだ。モノが戦争記録画だけに、カゲキな行動を抑える予防線を張らなくてはいけないのだろうか。

2013/05/24(金)(村田真)

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