artscapeレビュー

安彦祐介「スウィートホーム」

2013年06月15日号

会期:2013/04/26~2013/05/06

RENSEI PRINT PARK[東京都]

井上佐由紀展を開催したnap galleyは、3331 Arts Chiyoda の2Fのスペースだが、その地下のRENSEI PRINT PARKでは、安彦祐介が個展を開催していた。安彦の作品はいつもいろいろ観客を楽しませる仕掛けを凝らしている。むろん今回の展示もその例に漏れない。
今回の「スウィートホーム」の主題は、安彦の生まれ故郷でもある北海道札幌市郊外の建て売り住宅群だ。それらを雪が積もった冬の季節に「ペンタックス6×7にソフトフォーカスフィルターをつけて」撮影し、全紙サイズにプリントしている。フィルターの効果によって、画面全体が柔らかにぼかされ、白い綿のような雪が、どちらかと言えばほんのりと温かみのある雰囲気で写っている。まさに「スウィートホーム」そのもののイメージなのだが、このタイトルは「札幌近郊で今年たまたま見つけた」実際の住宅の名称なのだそうだ。つまりパステルカラーのペラペラの建て売り住宅を、いかにもメルヘンチックに撮影しているわけで、そこにはむろん安彦独特の批評的な距離感が介在している。もし雪の積もっている時期に撮影しなかったならば、ノイズが多い、ただの安っぽい住宅写真になってしまうはずだ。雪という舞台装置とソフトフォーカスフィルターを巧みに使いこなすことで、むしろ「隠されているもの」に想像力が動いていくようにもくろんでいるのではないだろうか。
「北欧やロシアや中国でも、同じコンセプトで撮ってみたい」とのこと。それはそれで、比較の対象が増えて面白くなりそうだ。

2013/05/01(水)(飯沢耕太郎)

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