artscapeレビュー

志賀理江子「นัดบอด/ブラインドデート」

2013年06月15日号

会期:2013/03/08~2013/06/30

書本&cafe magellan(マゼラン)[宮城県]

仙台に帰郷したついでに、せんだいメディアテーク近くの古書店、Magellan(マゼラン)に立ち寄ったら、思いがけず志賀理江子の展示を見ることができた。
この「ブラインドデート」は、2009年にタイ・バンコクにアーティスト・イン・レジデンスで滞在中に制作した作品だ。バンコクはバイク天国で、若いカップルたちが相乗りしている姿をよく見る。志賀はそれを見て「これだけ多くのバイクに乗った人がいれば、きっとふざけて彼の目を手で隠して走り、死んだ恋人がいたかもしれない」と考える。実際にはそんな事実はなかったようだが、彼女はいつものようにその夢想(というより妄想)を身体的な現実として定着しようと試みる。バイクに相乗りする100組の恋人たち、「彼らとともに5分間バイクを走らせ」、その姿を至近距離から撮影したのだ。
それら、エクスタシーと死者との間に宙吊りになったような表情の恋人たちのポートレートが、古書店の壁や天井にパラパラと貼られている。バンコクで展示したときのテープや画鋲の穴の痕がそのまま残っているプリントを、隠れん坊の鬼になったような気分で探し歩くのがなかなかいい。実はポートレートの何枚かは、売り物の本の中に「しおり」として挟み込まれていて、それを買った人は持ち帰ることができるという仕掛けになっているようだ。「螺旋海岸」のような大作と比較すれば小品には違いないが、これはこれで、彼女の発想を形にしていくプロセスがヴィヴィッドに伝わってくる興味深い実験作だった。

2013/05/26(日)(飯沢耕太郎)

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