2018年12月01日号
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artscapeレビュー

マギー・マラン『Salves──サルヴズ』

2013年07月01日号

会期:2013/06/15~2013/06/16

彩の国さいたま芸術劇場[埼玉県]

一言でいえば「ドタバタ悲劇」。ラストの5分は「ドタバタ悲喜劇」。5台のオープンリールが舞台を囲む。冒頭、この機械で再生するテープをダンサーたちがマイムで手繰ってみせる。その後は、5秒から10秒のきわめて短いシーンが暗転を挟んでひたすら連なってゆく。たとえば、一文字に腰掛けた男女、不意に現われた黒人や軍人が横から割り込むと端の一人が押し出され、倒れてしまうとか。とくに繰り返されるのは、あわてる人間たちの姿とか。なにに追われているのか判然としないが、あわてるさまは緊張しているようでも緊張している振りのようでもある。特徴的なのは、皿とか彫刻像とかを数人でバケツリレーしているあいだに、それらが床に落ち、割れてしまう場面。これが何度も繰り返される。割れた皿を集めて復元してみせたりもする。暴力が文化や伝統を破壊することのメタファー? しかし、不思議なくらい、戦慄が、見るこちらの心に迫ってこない。堆積していくシーンが暗転を挟んでいるからか、映画の一場面のように見えてしまい、その分、間近な舞台で実演されていることなのに迫真的でないのだ。世界に潜む不安を取り上げてはいるものの、この取り上げ方だと、不安な出来事を安心な距離から見つめている格好になってしまう。アイロニカル、でもそれでいいの?と思わされる。始終流れていたフランス語の語りをぼくが聞き取れなかったことが致命的問題だったのかもしれないが。最後の5分は、それまで暗かった舞台が突然明るくなり、大きなテーブルが用意され、パーティでも開かれそうな様子になる。しかし、ささいなことで、人々はけんかを始める。顔にカラフルなペンキを投げつけ合う。叩き合って、パーティが台無しになって終わる。悲劇の後の喜劇は、喜劇それ自体の力を発揮する余地なく悲劇をより悲劇的に(悲惨なことに)する。世界を転がす難しさ、生きることの苦しさは描いたのかもしれない。けれども、そんなこと当たり前じゃないとも思ってしまう。むしろ、難しいと苦しいと思い込んでしまう精神の硬直を解きほぐす力こそ、ダンスの力なのではないか。その意味では、もっと踊って欲しかった。短いシーンを積み重ねるやり方は、ピナ・バウシュを連想させたが、バウシュが踊りの内に盛り込んだ「精神を解きほぐす力」はここにはなかった。ただ悲しくもなく可笑しくもないドタバタがあるだけだった。

2013/06/16(日)(木村覚)

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