artscapeレビュー

坂田栄一郎「江ノ島」

2013年08月15日号

会期:2013/07/13~2013/09/29

原美術館[東京都]

坂田栄一郎のデビュー作は、ニューヨークのタイムズ・スクエアで道行く人々に声をかけて撮影したという「JUST WAIT」(銀座ニコンサロン、1970)である。その後、技巧的な趣向を凝らしたポートレート作品を中心に発表してきたが、今回東京・品川の原美術館で開催された「江ノ島」展には、彼の原点回帰というべき、気合いが入ったストレートな作品が並んでいた。
中心になっているのは、砂浜に広げられたレジャーシートの上にまき散らすように投げ出された衣服やグッズ類を、原色を強調して俯瞰するように撮影した「人のいないポートレート」のシリーズ。無人の光景ではあるが、たしかにそれらを所有する人物たちの姿が、ありありと、容赦なく浮かび上がってくるように感じる。この目のつけどころのよさは、さすがというしかない。こういうモノの側から照らし出す社会的ドキュメントは、もっと若い写真家たちが試みてもよさそうなものだが、これまではなかなか出てこなかった。都市圏と田舎の境界線上にある江ノ島という絶妙な場所の設定も、うまく働いているではないだろうか。
2Fの会場には、派手な化粧や水着の若者たちを、青空をバックに正面から撮影したポートレートが10点ほど並ぶ。これらは手法的にも、まさに「JUST WAIT」の現代版と言えるだろう。ほかに、やや文学的な陰翳を感じさせる「波」のシリーズがあったが、これは展示構成としてはやや余分だった気がする。

2013/07/31(水)(飯沢耕太郎)

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