2024年03月01日号
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artscapeレビュー

プレビュー:黒沢美香&ダンサーズの『食事の計画』、奥山ばらば(大駱駝艦)『磔(ハリツケ)』、イデビアン・クルー『麻痺 引き出し 嫉妬』

2013年09月01日号

artscapeの企画で、今月のレビューでも取り上げた吾妻橋ダンスクロッシングの桜井圭介さんと話をした。その内容は、今秋中に本サイトにてアップされると思うのでそのときに読んでもらいたいのだけれど、あらためて桜井さんと話し、考えさせられたのは、ぼくのフォローしているダンスの分野で、この10年の間になにか真新しい試みというのはなされたのだろうか?ということだった。この10年に目立ったのは、真新しさよりも、一種の復古的ともいうべき伝統へ回帰する傾向だったように思う。いや、回帰でもなくて、多くのダンス作家たちは淡々と過去のダンスが獲得した価値を再生産し続けてきただけなのかもしれない。ただ「回帰」の言葉をつい口にしてしまうのは、吾妻橋のような試みがあったからだ。新奇さを競う以上にじつは「ダンスってなんだろう?」という本質的な問いを投げ続けてきた吾妻橋。これが「ファイナル」を迎えた。けれどもこの問い自体は、消えることはない。個々人には、「わたしはこれまでこんな試みをした」という自負があるかも知れない。けれども、その努力が個人のトリヴィアルな課題の解決に終始しないかたちで、いわばダンスなるもの(ひとが抱くダンスへの思い込み)の更新に役立ったのかを考えてみるべきだ。そもそもダンスにはとてつもない力があるはずだ。ダンスは(音楽と、あるいはパートナーと、あるいは観客の思いと)合わせるゲームであるだけではなくて、合わせないことから始まる事態へ突き進むゲームでもある。古典や伝統を放擲する必要もないけれど、いまぼくたちが生きている諸状況に合わせたり合わせなかったりすることで、ぼくたちを束ねたり荒野へ解き放ったりしながら、ダンスのもっている潜在的な力を、もっと真剣に試すべきではないだろうか……と熱くなってしまいましたが、すいません、ここはプレビューの場でした。今月は黒沢美香&ダンサーズの『食事の計画』(9月1日、8日、16日、29日、横浜市大倉山記念館ホール)、奥山ばらば(大駱駝艦)『磔(ハリツケ)』(9月13日~21日、壺中天)、あと東京圏では来月初旬の上演だけれど、イデビアン・クルー『麻痺 引き出し 嫉妬』([北九州公演]9月28日~29日、北九州芸術劇場、[神奈川公演]10月5日~7日、神奈川芸術劇場)をレコメンドします。あれ、今月ちょっといいじゃないですか! この3組の公演を見に行けば、ぼくが上記したことなんて、ただの思い過ごしだってことになるかもしれません。

2013/09/02(月)(木村覚)

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