artscapeレビュー

原芳市「天使見た街」

2013年09月15日号

会期:2013/08/19~2013/08/25

Place M / M2 gallery[東京都]

銀座ニコンサロンで「常世の虫」展を開催したばかりの原芳市が、矢継ぎ早に新宿のPlace M とM2 galleryで別の作品を展示した。このところの原のコンスタントな仕事ぶりには、驚くべきものがある。今回の「天使見た街」も、見せられるものはいま全部見せておこうという気迫が伝わってくる、充実した内容の展覧会だった。
原は2000年~01年にかけて『ザ・ストリッパー・舞姫伝説』(双葉社)におさめる写真を撮影するため、日本全国の劇場を回っていた。その怒濤のような日々の後に訪れた虚脱状態のなかで、偶然「リオのカーニバル」のTV番組を目にする。あたかも啓示のように「次はこれを撮影しなければ」と思ったのだという。最初にブラジル・リオデジャネイロを訪れたのは2004年、それから06年までの3年間に計4回滞在した。最初は時差ボケの影響もあって、ほとんど朦朧とした状態で撮影していたのだが、そのうちサンバ・チーム「マンゲーラ」の関係者や貧民街ファベーラの住人たちともコンタクトがとれるようになり、彼らの生により密着した写真に結びついていった。それらをまとめたのが今回の展覧会と、同時に刊行された同名の写真集『天使見た街』(Place M)である。
会場に並んでいるのは、スナップショット的な都市風景もあるが、大部分はカメラを被写体の正面に据え、ポートレートとしての意識で撮影されたものだ。その意味では、1980年代の写真集『ストリッパー図鑑』(でる舎、1982)や『淑女録』(晩聲社、1984)の延長上にある仕事と言えるだろう。だが、カラーポジフィルムで撮影された今回のシリーズは、「図鑑」としての統一性を保っていた前作と比較すると、より自在に被写体との距離感を伸び縮みさせているように見える。それとともに、リオの住人たちの圧倒的な生のエネルギーをひたすら受けとめ、抱きとろうという原の覚悟がしっかりと伝わってきた。
原は撮り続けていくうちに、「写真機に封じ込めた彼ら彼女らが、天使以外のなにものでもないと実感した」のだという。その経過を細やかに綴った写真集の「あとがき」の文章が素晴らしい。前作の「常世の虫」と併せて見てみると、原芳市の写真世界が完全に花開いてきたという強い思いが湧き上がってくる。60歳を過ぎてからという遅咲きの開花であり、これもまた稀有な事例と言えるだろう。

2013/08/22(木)(飯沢耕太郎)

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