artscapeレビュー

須田一政「テンプテーション2011-2013」

2013年10月15日号

会期:2013/09/04~2013/10/05

フォト・ギャラリー・インターナショナル[東京都]

須田一政は展覧会のリーフレットに寄せた「TEMPTATION」と題する文章で以下のように書いている。
「写真家ならざるものを撮ってみたいという変な衝動にかられている。これまでは対象物をぐっと自分に引き寄せるかたちで作品を創ってきたのだが、近年、被写体に引き込まれるような感覚にとらわれているせいかもしれない。/写真は自らを反映すると言いながら、できるだけ自意識を離れたいと考えてきた。どこかで内なるものを覗くことに抵抗していたのだ。その視覚こそ絶対の原則に、未知のナニが入り込んできたような気がするのだ」
1940年東京生まれ、70歳を超えた須田の現時点での写真観が、過不足なく言明されていると言えるだろう。ここで語られている「被写体に引き込まれるような感覚」は、確かに須田の近作を集成した今回の展示作品にはっきりと表われている。さらに言えば、「被写体に引き込まれる」のは写真家だけではない。その写真を見るわれわれ観客もまた、そこに写っている幽明の境界を漂うようなモノ、人、生きものたちの方へ引き寄せられ、吸い込まれてしまうような恐怖にとらえられてしまう。そこには確かに「未知のナニ」が、不気味だがどこか笑いを誘うような姿で、のっそりと横たわっているのだ。
ギャラリーの控え室に、まるでこちらをそっと覗き見るように掛けられた自写像を含めた全30点。縦位置の写真が多いのは、そのまま写すと縦長に写ってしまう6×4.5判のカメラを使っているためだろう。そこには、入退院をくり返しつつも、ますます融通無碍な境地に達しつつある須田一政の写真表現の現在が、血を滴らせるように生々しく露呈していた。

2013/09/05(木)(飯沢耕太郎)

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