大西みつぐ「物語」:artscapeレビュー|美術館・アート情報 artscape

2018年08月01日号
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大西みつぐ「物語」

2013年10月15日号

会期:2013/09/02~2013/09/08

銀座奥野ビル三〇六号室[東京都]

東京都中央区銀座1丁目の奥野ビルは、1932(昭和7)年竣工という古い建物。戦前はモダンな文化人たちが住むアパートだった。その三〇六号室に、やはり戦前から「スダ美容室」が営業していた。店主の老齢化とともに、昭和60年代に廃業したが、その後も住居として使用されていたという。「銀座奥野ビル三〇六号室プロジェクト」は、その部屋をそのまま維持しつつ活用することを目的として、何人かの有志によって運営されている。美容院時代に使われていたという丸い鏡だけでなく、剥落しかけた壁や壁紙の一部などもそのまま残され、往時の面影を留めている。
大西みつぐは、その三〇六号室の雰囲気をそのまま活かしつつ、いろいろな素材を持ち込んでインスタレーションを試みた。ラジオからは、甘いオールデイズの曲が流れ、古写真が棚や床に散らばり、書棚には古い『平凡』が薄明かりに照らし出されている。今回は自作の写真ではなく、ウィーン辺りで撮影されたとおぼしき交通事故の記録写真を「森山大道の『アクシデント』ばりに」複写して、コントラストを強くプリントしたパネルなども展示していた。部屋から引き出され、形をとっていった「物語」を、その固有の空間に凝固させ、併せてそこを訪れる観客の記憶と重ね合わせていくという大西の試みは、さらなる可能性を孕んでいるのではないだろうか。
この三〇六号室では、以前、今道子も作品を展示したことがあった。その時は三〇六号室で撮影した写真を、同じ部屋に飾るという試みだった。この部屋と写真とはとても相性がいいので、誰かほかの写真家の展覧会も見てみたいと思っている。

2013/09/06(金)(飯沢耕太郎)

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