artscapeレビュー

黄金町バザール2013

2013年11月01日号

会期:2013/09/14~2013/11/24

京急線「日の出町駅」から「黄金町駅」の間の高架下スタジオ、周辺スタジオ、既存の店舗、屋外ほか[神奈川県]

2008年以来、神奈川県横浜市の黄金町一帯で催されてきた「黄金町バザール」も6回目を迎えた。今回参加したのは、国内外から推薦され、あるいは公募を通過したアーティスト16組。基本的に黄金町に滞在して制作した新作を発表した。
前回までとの大きな違いは、展示エリアがコンパクトになっていた点である。京急の高架下を中心に作品が点在しているので、鑑賞者は地図を片手に作品を探し歩くことになるが、いずれの会場もほどよく近いので、歩きやすい。ところが、その道中で気がついた点がある。それは、自分の足取りが、いわゆる「黄金町」と呼称される地域の外縁にほぼ相当しているという事実である。鑑賞者は「黄金町バザール」を楽しみながら、同時に、黄金町の内部と外部の境界線を上書きしていたのだ。
この内部と外部の境界線という主題を、最も如実に表現していたのが、太田遼である。太田は建物の戸外に設置されている雨樋を室内に引き込んだ。展示会場の白い床には、薄汚れた水滴の痕跡が重なりながら残されていたから、雨樋として実際に機能しているのだろう。西野達とは違ったかたちで外部を内部に取り込む手並みが鮮やかだが、太田の作品はもうひとつあった。会場の奥の扉を開けると、そこには中庭のような、しかし、用途不明の奇妙な空間が広がっている。建物と建物の背中が合わせられたデッドスペースに、トタン板などを張り巡らせることで、外部でありながら内部でもあるような両義的な空間を作り出したのである。内部と外部の境界線を巧みに編集してきた太田ならではの傑作と言えよう。
今回の「黄金町バザール」は、展示エリアを縮小したことによって、結果として「黄金町」という地域の既存の境界線を強固に補強してしまったように思えてならない。青線地帯という固有の歴史を背負っているがゆえに、外部から隔絶された閉鎖的な街。「黄金町バザール」が、その負の歴史からの脱却ないしは克服を目指しているとすれば、必要なのは「黄金町」の境界線をなぞることではなく、まさしく太田が鮮やかに示したように、内部と外部の境界線を反転させることで、両義的な空間を拡張していくことではなかろうか。「黄金町」でありながら「黄金町」とも限らないような街。アートがまちづくりに貢献できることがあるとすれば、そのような不明瞭な街並みをアートによって見せていくこと以外にないのではなかろうか。

2013/10/09(水)(福住廉)

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