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artscapeレビュー

熊谷聖司「はるいろは かすみのなかへ」

2013年11月15日号

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会期:2013/09/21~2013/11/03

POETIC SCAPE[東京都]

1994年、神奈川県の森戸海岸のひと夏を撮影した「もりとじゃねいろ」で第3回写真新世紀グランプリを受賞して以来、熊谷聖司は着実に写真家としての歩みを進めている。派手な活躍をしているという印象はないが、自費出版的なものも含めて、これまでに出した写真集、開催した個展の数だけでも相当多数になるのではないだろうか。
今回の「はるいろは かすみのなかへ」は2008年以来、故郷の北海道函館に近い大沼国定公園を、四季を追って撮影し続けているシリーズの第4作にあたる。「あかるいほうへ」(2008)、「鳥の声を聞いた」(2010)、「神/うまれたときにみた」(2011)と続いてきたこの連作も、夏、秋、冬と季節が巡り、今回の春のシリーズで完結することになる。熊谷はほかに、身近な場所を撮影し続けているスナップショットを、日々積み上げつつあるが、この風景写真のシリーズは、彼の創作活動のもうひとつの柱となっているように思える。
「風景」といっても、それほど仰々しいものではない。カメラを手に森や沼のほとりを歩き回る熊谷の足取りは軽やかで、肩に力を入れず、自然体でシャッターを切っている。今回の展示作品では、水面に細かな模様を描くさざ波やたなびく霞などが、写真家と被写体との間の距離をじんわりと溶解し、穏やかな対話が成立しているように感じた。写真という表現媒体を慎ましく、だが確実に使いこなしていこうとする熊谷の営みは、いまや実り豊かな収穫の時期を迎えつつあるのではないだろうか。

2013/10/06(日)(飯沢耕太郎)

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