artscapeレビュー

中見真理『柳宗悦──「複合の美」の思想』

2013年12月01日号

発行日:2013年7月20日
発行所:岩波書店
価格:800円(税別)
サイズ:新書判、221ページ

民藝運動の創始者として広く知られる柳宗悦(1889-1961)の諸活動を、「民藝から解き放つ」ことを目的に書かれた書。国際関係文化史を専門とする著者は、「平和思想家」としての柳の像に照明を当てる。そして、柳の多方面にわたる活動(宗教哲学/沖縄・東北・アイヌの地方文化に対する積極的な評価・コミットメント/朝鮮に対する植民地支配を批判など)を貫く思想を「複合の美」に見る。そのキーワードは、「野に咲く多くの異なる花は野の美を傷めるであろうか。互いは互いを助けて世界を単調から複合の美に彩るのである」という彼の言葉から引用されている。当時の社会が有した諸問題に相対して実践的な行動を起こした柳の思想から、現代の私たちはなにを読み取るべきなのか。本書はそのような問題意識のもとに、国際平和や理想的社会の実現という観点から、柳宗悦の独自の思想の形成を追究する。彼の包括的な全体像を、民藝運動のみにとらわれずに示そうとする、新しい視点の書である。[竹内有子]

2013/11/16(土)(SYNK)

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