artscapeレビュー

MOTOKI「FIRST EXHIBITION SUMO」

2014年03月15日号

会期:2014/02/07~2014/03/08

EMON PHOTO GALLERY[東京都]

面白い「新人」が登場してきた。独学で写真作品を制作・発表していたMOTOKIは、50歳代の女性写真家で、2児の母親、弁理士としての顔も持っているのだという。この「SUMO」というシリーズは、昨年、靖国神社の奉納相撲をたまたま見て「裸体の力士が戦う姿は神聖であり、神秘的」と感じたことをきっかけにスタートした。たしかに古来相撲は神事としての側面を持ち、巨大な体躯の力士たちが四股を踏み、塩をまき、互いに組み合う姿は、ある種の宗教的な儀式を思わせる。MOTOKIはその様子を、写真の画面の大部分を黒の中に沈め、ブレの効果を多用することで、象徴的な画像として表現した。その狙いはうまくいって、独特の静謐な雰囲気を醸し出す魅力的なシリーズとして成立していると思う。
思い出したのは、奈良原一高が1970年に刊行した写真集『ジャパネスク』(毎日新聞社)である。奈良原は1960年代前半にパリを拠点としてヨーロッパ各地に滞在し、65年の帰国後にこのシリーズを構想した。禅、能楽、相撲、日本刀などの伝統的な日本文化のエッセンスを、むしろ欧米からの旅行者のようなエキゾチックな視点でとらえている。MOTOKIのこの作品は、もしかすると新たな『ジャパネスク』として大きく育っていく可能性を秘めているのではないだろうか。相撲だけでなく、広く他の被写体にも目を向けて、日本文化の「かたち」を視覚的に再構築していってほしいものだ。今回の展示が彼女の初個展だそうだが、すでにインドに10年間通い続けて撮影した「野良犬」のシリーズなどもあり、意欲的に作家活動を展開していくための条件は整っているのではないかと思う。

2014/02/19(水)(飯沢耕太郎)

2014年03月15日号の
artscapeレビュー