artscapeレビュー

青木陽「火と土塊」

2014年03月15日号

会期:2014/02/24~2014/03/08

Art Gallery M84[東京都]

昨年(2013年)8月に開催された東川町国際写真フェスティバルの行事の一環として開催された「赤レンガ公開ポートフォリオオーディション2013」。そこで最高賞のグランプリを分け合ったのが青木陽と堀井ヒロツグである。彼らの個展が、東京・東銀座のArt Gallery M84で相次いで開催されることになり、まず青木の「火と土塊」から展示がスタートした。
青木の写真について語るのはなかなか難しい。写っているのは、ごく日常的な事物や風景(カーテン、丸まった寝具、墓、森、海など)だが、それらを撮影し、プリントする過程において、何やら魔術的な操作が加わっているように感じる。全紙、あるいは小全紙サイズのモノクローム・プリントの前に立つと、その濃密なグレートーンに身も心もからめとられ、遠い場所へと連れ去られてしまうような気がしてくるのだ。その青木の写真の引力を支えているのは、むろん彼の写真にふさわしい被写体を選別し、嗅ぎ分ける鋭敏な感受性だが、それを達成するための極めて高度な技術力も見落とすことができない。ライカの一眼レフカメラと50ミリの標準レンズ、印画紙は粒状性に優れたイルフォードHP5、トーンをコントロールしやすい散光式の引伸し機、画像にコントラストと深みを与えるためのセレニウム調色──このような徹底した技術的なこだわりによって、印画紙の中に別次元の画像空間が形成されているように思えるのだ。しかも、彼がつくり上げる画面は、ジャクソン・ポロックの「オール・オーヴァー」からアンドレアス・グルスキーの「全体を一度に把握する構成」まで、該博な美術史、写真史の知識に裏づけられている。
あたかも中世の錬金術師のような彼の制作態度は、反時代的としか言いようがないが、逆にそこから現代の写真表現の新たな可能性が芽生えてきそうな気もする。形而上学的な思考力と職人的な技巧との、精妙かつ大胆な結合。彼の作品世界が、これから先どんなふうに大きく成長していくかが楽しみだ。

2014/02/24(月)(飯沢耕太郎)

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