artscapeレビュー

砂連尾理『新しい公共スペースを再考するためのダイアローグ──カモン! ニューコモン!!』

2014年04月01日号

会期:2014/03/16

名取市文化会館[宮城県]

昨年8月から何度かのワークショップを繰り返し、3月にも3日間のワークショップを経て行なわれた「ボディミーテング」と称するイベントを取材に行った。ファシリテーターは砂連尾理。宮城県名取市は、東日本大震災によって911名の死者、40名の行方不明者、5,000棟以上の半壊以上の建物を出した被災地(データはウェブサイト「名取市における東日本大震災の記録」に基づく)。今回の会場になった名取市文化会館は、とても立派な建築物を有しており、大震災の際には避難所になったところでもある。避難所になったとき、通常の活動ではありえない数の市民が訪れ、利用した。市民はそこで主体性を発揮し自治を発生させたという。有名芸能人の公演以外にあまり興味を示さない受け身の市民が、生活が困難な状況のなかで、文化会館を主体的、能動的に利用した。その事実は残ったものの、通常の活動が再開されると、市民の多くは文化会館へ足を運ばなくなり、会館に対して大震災以前の受け身の状況に戻ったのだそうだ。いや、「戻った」といっても、多数の死者が出、多くの家屋が壊れ、ひとの繋がりが切れかかっている現実を顧みれば、市民の生活状況はかつてと同じはずはない。その危機のなかで、どう皆が協同する力を獲得するかという喫緊の課題に、市民は直面していた。砂連尾理の市民への働きかけはそうした最中になされた。2時間ほどの「ボディミーティング」は次のように行なわれた。市の文化財に指定されている「閖上大漁唄込み踊」を継承する婦人会の方々20名ほどが踊りを披露し、その後、ワークショップ参加者が踊りを習い婦人会の方々と一緒に踊った。後半は、ワークショップ参加者がつくった名取市をテーマにする詩を七等分し、言葉一つひとつに即興で振りを付けて、皆で踊った。簡単にいえば、伝統的な踊りと(コンテンポラリー)ダンスとが交流したという会だった。砂連尾は、地元のご婦人方を尊重し、そのうえで、新しいアイディアのもと、皆でつくったダンスにご婦人方を招いた。ワークショップ参加者は20代から50代のおおまかにいって地元の方たち。彼らは、伝統的なダンスと新しいダンスを同時に実演しながら、たんに古い/新しいダンスを知るだけではなく、コミュニティの形成という課題について考えることとなった。ダンスを交換したあと、ワークショップ参加者を中心にディスカッションがあった。そこでは、協同する力をめぐって議論が起きたが、主として話題になったのは会館の運営についてだった。どうすれば震災時の主体的だった市民の姿を再び見ることができるのか?それを望むならば、管理意識の強い現今の会館の運営はプラスに機能していないのではないか?会館が立派すぎて敷居が高くなっているのではないか?こうした企画と市民とが気軽に交流できる導線づくりが不可欠ではないか?などの問いが、議題に上がった。ここにあったのは、震災以後の問題にあわせて、ずっと問わずに済ませてきたかも知れない震災以前の問題であり、その二つの課題が一気に露呈しているところに、困難さとともに可能性もあるように思う。ただし、こうした試みが一過性のものであっては力にならない。継続的な活動が不可欠だ。

-カモン!ニューコモン!!- announce.1

2014/03/16(日)(木村覚)

2014年04月01日号の
artscapeレビュー