artscapeレビュー

野口哲哉 展─野口哲哉の武者分類図鑑─

2014年05月01日号

会期:2014/02/16~2014/04/06

練馬区立美術館[東京都]

鎧武者を造形する野口哲哉の個展。古美術や参考資料もあわせて100点あまりの作品が展示された。博物館が所蔵する古来の甲冑と野口の作品を並置することで、虚実がない混ぜになった世界観を巧みに演出していた。
見どころが鎧武者を精巧に造形する超絶技巧にあることは言うまでもない。だが、それ以上に印象づけられたのは、野口の鎧武者がある種のドワーフに見えたことだ。いずれも実寸より小さく、場合によっては手に乗るほど小さなサイズだからだろう。漏れなくおじさんであることも7人の小人と重なりあうし、あるいは鎧武者でありながら、いずれも戦闘の雰囲気を微塵も感じさせず、むしろ日常のけだるい空気感を漂わせているという落差が、そうした幻想性をひときわ高めているのかもしれない。とりわけ箱の中でひとりずつ横たわる《Package of Past man》のシリーズは、まるで妖精のような儚さすら感じられる。
それゆえ野口の鎧武者は、徹頭徹尾、ファンタジーであることがさらけ出されている。どれほど甲冑が精巧につくり込まれているとしても、それらが意味する戦闘や武士、あるいはホモソサエティといった参照項と決して結びつかないのだ。武家出身の高橋由一は《甲冑図(武具配列図)》によって武家社会への断ち切れぬ郷愁と揺るぎない誇りを描いたが、野口の造形にはそうしたマッチョなノスタルジーはほとんど見受けられない。あるのは、ただ、ひそやかな幻想世界の強度である。
実在の街を塗りかえるような浸透力をもつオタク文化でもなく、きらびやかな世界を定期的に供給することで独特のコミュニティを形成するタカラヅカでもなく、あくまでもひそやかに、しかし忘れ得ない幻想性を、一時的にではあれ、垣間見せること。野口の世界観は、こうした類稀な幻想性に基づいているのであり、おそらくアートの王道もまた、この幻想性に向かっているに違いない。

2014/04/06(日)(福住廉)

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