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artscapeレビュー

かもめマシーン『ニューオーダー』

2014年05月01日号

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会期:2014/04/25~2014/04/29

北品川フリースペース楽間[東京都]

劇作家・萩原雄太が突然舞台で正座すると、役者たちは萩原に土を振りかけた。最後の場面がこれだった。「ああ、なるほど」と安堵のような気持ちに満たされた。本作の主題は「土地」。震災以後、これまで住んでいた土地を離れる者が少なからずいるなか、ここに生きていてよいのか、あるいはこの土地は本当に自分の生まれ死ぬ土地としてふさわしいのかと問わずにはいられない。そうした悶々とした思いが自分の内にあると、芝居が始まる前に萩原は舞台から客席に語りかけた。そして一言「これは僕のために上演する物語です」。つまり、最後の場面は、この最初の言葉にループしたわけだ。こうやって円環するまでの時間、要するに、芝居の中身はどんなだったかというと、暗澹たる話が続いた。アヤメとカホという姉妹がいて、カホは震災以後、住み慣れた土地を離れることにした一方、アヤメは離れなかった。しかし、アヤメは逡巡しており、バスターミナルで高速バスがあれこれの町へ旅立つのを眺めながら、時間を過ごしている。そこで猫がバスに轢かれてしまう。この猫はアヤメとカホがかつて二人の名にちなんで「アヤカ」と名づけた猫だ(時間がずいぶん経過しての再会だったから、野良猫を「アヤカ」と錯覚しただけかもしれない)。アヤメは猫を埋める場所を探す。町の公園にそんな土地はない。いや、奥の目立たぬところに丘があって、そこにアヤメは石で穴を掘りアヤカを埋めた。さて、最後の場面で萩原がかぶるのは、この猫を埋めるのに用いた土だった。彼は土だらけになったまま、「とてもよい土なので、とてもよい気持ちがします」みたいなことを口にした。この一言で、なんだか救われたような、妙だが「爽快な」気持ちにさえなった。暗澹たる話が語られてそのまま終わってしまったら、作家の不安や失望の念を観客はそこから読み取り、持ち帰るだけだっただろう。この上演が最後の場面を加えたことでさらに一層作家個人のために、ただただ彼の救済のために遂行された格好になったわけだが、そのことはかえって、見る者に納得する気持ちを与えていたように思う。演劇は何のためにあるのか? その答えは多様だ。萩原が「僕のためにある」と言い切ったことで、この上演は、とても独特なまとまりを宿した。土地を自分の土地と思うこと。この今日的難しさは、演劇を自分の演劇と思うことの今日的難しさともつながる。おそらくは、ぼくたちが共同体というものをどう獲得し、どう継続するかにかかっているのだろう。萩原が今回踏み出した一歩は、こうした大きな課題への一歩とも映る。

2014/04/28(月)(木村覚)

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