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没後百年 日本写真の開拓者 下岡蓮杖

2014年05月15日号

会期:2014/03/04~2014/05/06

東京都写真美術館[東京都]

日本最初の写真師のひとりで、幕末に横浜で写真館を開いた下岡蓮杖の初の本格的な回顧展。1823年生まれというから、洋画の先駆者・高橋由一や五姓田芳柳とほぼ同世代。3人とも最初は絵師を目指したが、由一や芳柳が西洋画を見て憧れたのに対し、蓮杖はたまたま目にしたダゲレオタイプに衝撃を受けて写真に転向する。こうした人生の分かれ道はほんの偶然によるものだ。とはいえようやく開港するかしないかの時代、だれも写真術なんか知らないので外国船の入る下田(出身地でもある)や浦賀をうろつき、要人に食い込んで習得したという。こうして開港まもない横浜で写真館を開業するが、明治8年に東京浅草に移転。この前後から写真館の背景画やパノラマ画を描いたり、乗合い馬車を始めたり、夫婦でキリスト教の洗礼を受けたり、洋画を展示して観客にコーヒーを振る舞う油絵茶屋を開いたり、多彩な活動を展開し、晩年は絵画制作に明け暮れたという。結局、蓮杖が写真に専念したのは90年を超す長い人生のうち、横浜ですごした10年ちょっとのあいだだけで、今回の展示の大半もその時代の写真に占められている。あとはそれ以降の水墨画や同時代の資料などだ。ヤマッ気たっぷりだったらしい蓮杖にとって、写真とはどうやらひと山当てるための商売にすぎず、人生を賭けるに足るものではなかったのかもしれない。絵画に戻り、最後まで絵を描いていたというのは示唆的だ。

2014/04/02(水)(村田真)

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