artscapeレビュー

橋本照嵩「瞽女」

2014年05月15日号

会期:2014/03/14~2014/04/12

ツァイト・フォト・サロン[東京都]

若い世代にとって「瞽女(ごぜ)」はすでに死語に近い言葉だろう。中世以来、三味線を弾きながら歌をうたい、家々を回って門付をしながら旅を続ける盲目の女性たちがいた。明治以降の近代化によって、ほとんど廃れていたのだが、戦後も新潟県の高田や長岡に細々とその伝統芸を守り続ける「瞽女」たちが残っていた。ところが、高度経済成長が一段落すると、「瞽女」の存在はある種の郷愁と畏敬を持って語られ、描かれるようになっていく。
だが、橋本照嵩が1970~74年に撮影し、『アサヒグラフ』誌上での発表などを経て1974年に写真集『瞽女』にまとめた写真群は、画家の齋藤真一の油彩画や水上勉の『はなれ瞽女おりん』(1975)など、いわゆる「瞽女」ブームを生み出した作品とは一線を画するものではないかと思う。3年以上の歳月を、時には「男手引き」として瞽女たちを先導しながら歩き続け、撮り続けた写真群は、雪国を放浪する彼女たちの生の厳しさを余すところなく伝えてくれるからだ。
今回のツァイト・フォト・サロンでの展示は、1970年代のヴィンテージ・プリント36点によるもので、モノクローム印画のざらついた粒子と、白黒のコントラストが、時代の気分をよく反映している。ロマンティシズムのかけらもないそれらのプリントを見ながら思い出したのは、ほぼ同時期に撮影されたジョセフ・クーデルカの「ジプシーズ」だった。両者ともかなり広角気味のレンズを使っていることもその理由のひとつなのだが、チェコスロバキアと日本で同時発生的に同質の表現が形をとっていったことが、とても興味深い。

2014/04/03(木)(飯沢耕太郎)

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