artscapeレビュー

カンディダ・ヘイファー

2014年05月15日号

会期:2014/03/07~2014/05/10

YUKA TSURUNO GALLERY[東京都]

1944年、ドイツ・ケルン生まれのカンディダ・ヘイファーは、いわゆるベッヒャー派の代表作家のひとり。同じくデュッセルドルフ芸術大学でベルント&ヒラ・ベッヒャーの教えを受けたトーマス・ルフやトーマス・シュトルートと比較しても、その厳密なスタイルをもっとも正統的に受け継いでいる写真家だ。YUKA TSURUNO GALLERYでの個展は、その彼女の作品の、日本では初めてのまとまった紹介になる。I.8×2メートルを超える作品を含む大作7点が展示されていた。
ヘイファーの写真の主なテーマは、図書館、美術館、動物園、駅、銀行などの公共建築物である。それらの内部空間を、遠近法的なパースペクティブを強調して大判カメラで撮影する。こうして見ると、ヨーロッパの建築のスケールは、われわれ日本人にとっては威圧的であり、あまりにも壮麗過ぎて馴染めないものを感じる。ヘイファーにとっては、そのような建築によって培われた空間意識が、写真家としての画面構成の基本になっているわけで、これだけ落差が大き過ぎるとむしろ快感さえ覚えてしまう。もうひとつ気づいたのは、彼女の写真に写り込んでいる光源の扱い方で、建築物の細部を緻密に描写しているために、白っぽく飛んでいることが多い。それが逆に、一見絵画的に見えがちなヘイファーの写真に、生々しさ(ライブ感)を与えているのではないだろうか。
昨年のアンドレアス・グルスキーに続いて、ベッヒャー派の写真家たちの個展が続くのはありがたいが、そろそろベッヒャー夫妻の作品を含む決定版の展覧会を企画してほしいものだ。

2014/04/09(水)(飯沢耕太郎)

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