artscapeレビュー

高橋宗正『津波、写真、それから──LOST&FOUND PROJECT』

2014年05月15日号

発行所:赤々舎

発行日:2014/02/14

東日本大震災以後に、津波によって家々から流出した写真やアルバムを拾い集めて洗浄し、修復したり、複写・プリントしたりするというプロジェクトが、各地で一斉に立ち上がった。写真を一カ所にまとめて公開し、元の持ち主がそれらを見つけたら返却する。宮城県山元町でも、2011年5月にボランティアを募って「思い出サルベージ」という企画がスタートした。
その過程で、中心メンバーのひとりだった高橋宗正は、ダメージがひど過ぎて、修復も持ち主の同定もほぼ不可能な写真を展示・公開することを思いつく。震災の記憶の共有と、仮設住宅の自治会の資金集めが主な目的だった。「LOST & FOUND PROJECT」と名づけられたその展示は、2012年1月から開始され、東京、北海道など国内だけでなく、アメリカ、オーストラリア、イタリアなどでも展覧会が実現した。その一連の経過をまとめたのが、『津波、写真、それから』である。
ボランティアたちの善意は疑えないし、中心となって活動した高橋も「写真とは何か?」を問い直すうえで、多くのことを学んだはずだ。ただ、一読してやや疑問が残ったこともある。ひとつは、ほとんど画像の判別がつかなくても、特定の地域の誰かの所有物だった写真を、国内外の不特定多数の観客に公開していいのかということ。もうひとつは、このプロジェクトを通じて、写真が「作品化」しつつあることへの懸念だ。写真を壁一面に貼り巡らせたインスタレーションの迫力は圧倒的だが、どこか現代美術作品の展示のようでもある。本人は充分に自覚しているとは思うが、「高橋宗正の作品」としてひとり歩きしかねないようにも見えてしまう。
そのあたりの危うさを含み込んだうえで、「LOST & FOUND PROJECT」が「震災以後の写真」のあり方に一石を投じるプロジェクトだったことは間違いない。そのことは積極的に評価したい。

2014/04/10(木)(飯沢耕太郎)

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