artscapeレビュー

10周年記念企画展──西方の藍染

2014年06月01日号

会期:2014/05/03~2014/06/30

ちいさな藍美術館[京都府]

ヨーロッパの藍染、40点余りからなる展覧会。いずれも19世紀から20世紀のあいだに、フランス、ドイツ、ハンガリー、チェコ、オランダ、スペイン、ノルウェイなど、ヨーロッパでつくられたものである。衣裳やインテリアファブリックといった庶民の日常を彩った藍染が中心で、骨董的価値はさほど高くないかも知れないが、だからこそ日本で目にすることは少なく、これだけの逸品が一堂に会するのはまたとない機会である。
会場は、ちいさな藍美術館。藍染作家である館長の新道弘之氏が、藍染に使う良い灰を求めて家族とともに京都府美山町(重要伝統的建造物群保存地区)に移り住んだのは34年前である。茅葺き民家の住居兼アトリエの2階に、氏が染色技法の探求のために長年収集してきた藍染コレクションの展示スペースとして美術館が創立されて10年になる。今回の企画展では、そのなかからとくにヨーロッパの品々が選出された。
藍染といえば、一般に、日本の伝統的な染色という印象がある。明治期に日本を訪れた英国人が藍を「ジャパン・ブルー」と呼んだことからも、当時、日本人の生活のなかで藍染がふんだんに使われていたのは確かであろう。しかし同じころ、藍染はヨーロッパでも「ブルー・プリント」として広く親しまれていたのである。19世紀から20世紀は、中世からヨーロッパ全土で栽培されていたウォード(細葉大青)、16世紀からヨーロッパに流入し始めたインド藍、そして1897年に発明された化学藍といったさまざまな染料による藍染が混在した時期であり、藍染のあらゆる可能性が試された時期である。今回の展示では、日本のものとはひと味違ったヨーロッパの藍染の豊かさと力強さを堪能し、人々を魅了してやまない藍の歴史の一面をあらためて知らされた。
まぶしいばかりの新緑が萌える美山、藍色がひときわ映える。会場では、見るだけでなく、手にとって布の感触を味わい、さらに新道夫妻作の藍染グッズを購入し持ち帰って楽しむこともできる。[平光睦子]


ちいさな藍美術館、外観



館長の新道氏



展示風景

2014/05/11(日)(SYNK)

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