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井村隆「カラクリン展」/井村一巴「カラクリン写真展」

2014年06月01日号

会期:2014/05/08~2014/05/19

あるぴいの銀花ギャラリー/ギャラリー多羅葉[埼玉県]

造形作家・井村隆と写真家・井村一巴親子の展覧会。銅や真鍮、アルミニウムなどの金属板や針金でつくられ、小さなモーターで動くカラクリ・オブジェを、井村は「カラクリン」と呼んでいる。造形のモチーフは気球や飛行船、船、そして魚(しばしばシーラカンス)。いずれにも共通するのは奇妙な浮遊感である。気球や飛行船が中に浮いているのは当然として、魚は空中を水に見立ててゆったりと泳いでいる。いや、それは本当に水中なのか。なぜならば、魚に羽根が生えていてゆったりと羽ばたいているのだ。あるいは、プロペラが付いていて、ゆっくりと回っているのだ。そして、その中には魚の頭をした痩せっぽっちの小人たち──井村はこれを「ボンフリくん(bone free)」と呼んでいる──がいて、船を漕いだり、車輪を回したり、羽根を動かしたり、健気に働いている。つまり魚のような形をして宙を行く乗り物なのだ。たったひとつのモーターにつながった単純な構造によって生み出される動きの意外性と、どこかノスタルジーを感じる金属の造形。そしてなによりもボンフリくんという奇妙なキャラクターの存在によって、ただ同じ動作が繰り返されているにもかかわらずストーリーが拡がる。機構の妙を追求するカラクリは他にもいろいろあるけれども、井村隆の作品にはいつまで見ていても飽きない魅力がある。井村一巴の写真は、街に出たボンフリくん。駅で切符を買い、電車に乗り、海を見に行く。言葉を発することはない寡黙なボンフリくんだけれども、テキストが添えられているわけではないけれども、なんと雄弁なキャラクターだろう。[新川徳彦]


展示風景

2014/05/08(木)(SYNK)

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