artscapeレビュー

勝正光「Pencil drawing exhibition #1」

2014年06月01日号

会期:2014/04/12~2014/04/27

island MEDIUM[東京都]

大分県別府市の「清島アパート」で暮らしながら制作を続けている勝正光の個展。巨大な紙の上に鉛筆を走らせ一面の全体を黒く塗りつぶす作品を発表した。
その表面は漆黒の「黒」というより、むしろ光沢を放った「銀」。作品の前に立った人影を反映するほど黒鉛を支持体に強く塗り込めている。平面でありながら鋼のような硬質のマチエールが眼に沁みる。しかも同じ要領で支持体を塗りつぶしながら、その黒い画面の奥にエルメスのカレの文様が畳み込まれた作品もある。一見しただけではわかりにくいが、視点を変えて見ると有機的な模様が浮かび上がるという仕掛けがおもしろい。こうした工夫はややもすると全体の印象が図像のほうに引き寄せられがちだが、鉱物的な物資感が絵画的な図像の突出を絶妙に封じ込めている。
おそらく黒鉛を塗り込めるというシンプルな身ぶりだからこそ、あえて図像を混入させることで、その基本的な強度を試してみたくなるのではないか。自分で自分を追い込み、限界を突破していく。勝正光の黒い画面の奥には、昨今の若いアーティストには見受けられなくなった特徴も見通すことができるのである。

2014/04/24(木)(福住廉)

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