artscapeレビュー

隣人 イスラエル現代写真展

2014年06月15日号

会期:2014/05/03~2014/06/15

東京アートミュージアム[東京都]

おそらく日本でははじめての「イスラエル現代写真展」だろう。自身がインスタレーション作家でもあるレヴィヴァ・レゲヴのキュレーションにより、東京・仙川の東京アートミュージアムで20人のアーティスト、写真家の作品の展示が実現した。各作家の出品点数が1~3点とやや少なく、もう少しそれぞれの作品世界がよくわかるような構成にしてほしかったし、解説もややわかりにくかった。それでも、とても興味深い内容の展覧会であったことは間違いない。
いうまでもなく、イスラエル人にとっての「隣人」とは、パレスチナ、アラブの人たちである。だがいうまでもなく、両者は「しばしば相反する歴史的文脈、イデオロギーの切望、そして国家的野望を負って」きた。その「隣人」同士の、複雑で微妙な関係をテーマにした作品を集成したのが、今回の展覧会である。当然、歴史的、政治的文脈を強く意識した表現が頻出する。ミハ・ウルマンの1972年のパフォーマンスの記録「Messer-Metzer: Exchange of Earth」では、アラブの村、Messerとイスラエル側のキブツ、Metzerに掘った穴の土を交換する。フォト・ジャーナリズムとアートの両方の分野にまたがって活動するパヴェル・ヴォルベルグの「Dir-Kadis」(2004年)では、目隠しされて後ろ手に縛られたアラブ人の男性、イスラエル軍の戦車、白ヤギたちが三位一体の構図をとる。周辺諸国との極度の緊張関係の中で生活し、制作しなければならないイスラエル人アーティストたちが、政治的にならざるを得ない状況がよくわかる。
もう一つはキュレーションを担当したレヴィヴァ・レゲブやライダ・アドン、タル・ショハット、アニサ・アシカルなどの女性アーティストの作品に典型的にあらわれているように、身体性と演劇性を強調する仕事が目につくことだ。自己と他者との境界線を常に意識する中で、身体を介して現実世界の感触を確かめようという強い欲求が、彼女たちの中に芽生えつつあるということではないだろうか。いずれにせよ、歴史・政治意識が極めて希薄な日本の写真家たちの仕事の対極というべき「イスラエル現代写真」が、はじめてきちんとした形で紹介されたことの意義は大きい。

2014/05/03(土)(飯沢耕太郎)

artscapeレビュー /relation/e_00026191.json l 10099625

2014年06月15日号の
artscapeレビュー