artscapeレビュー

牛腸茂雄「〈わたし〉という他者」

2014年09月15日号

会期:2014/08/29~2014/10/26

新潟市美術館[新潟県]

荒木経惟展にあわせる形で、新潟市美術館の常設展示の会場では、同館が所蔵する牛腸茂雄の作品展が開催されていた。昨年(2013年)は牛腸の没後30年ということで、展覧会や写真集の刊行が相次いだことは記憶に新しい。今回の展示も、彼の写真の仕事を新たな世代へと受け継いでいこうとする意欲的な試みといえそうだ。
桑沢デザイン研究所時代の初期作品、最初の写真集となった『日々』(1971年)、最後まで取り組んでいた未完のシリーズ「幼年の〈時間〉」(1980年代)などに、友人たちと試作した映像作品、インクブロットやマーブリングの手法による写真以外の作品も加えて、「〈わたし〉という他者を問い続けた牛腸の制作の多面性」に迫ろうとしている。写真家=アーティストとしての成長のプロセスがくっきりと浮かび上がる展示は、なかなか見応えがあった。
だが今回の展覧会の白眉といえるのは、1982年に東京・新宿のミノルタフォトスペース新宿で開催された「見慣れた街の中で」の展示を再現したパートだろう。昨年刊行された新装判『見慣れた街の中で』(山羊舎)の編集過程で、ミノルタフォトスペースの展示には、1981年の写真集『見慣れた街の中で』に掲載されていない作品が含まれていたことがわかった。今回の展示では同館所蔵のプリントを、会場写真を参照しながら、同じレイアウトで並べている。それによって、牛腸がいかに巧みに観客の視線を意識しながら写真展を構成していたかが、ありありと見えてきた。写真相互のつながりとバランスを考えつつ、やや高めに写真を置いて、小柄な牛腸の目の高さで見た街の眺めを追体験させようと試みているのだ。この展示で、『見慣れた街の中で』をもう一度読み込み、読み替えていくための材料が、完全にそろったということになるだろう。
なお、新潟市美術館の荒木経惟展と牛腸茂雄展に呼応するように、8月から10月にかけて市内の各地で「新潟 写真の季節」と銘打ったイベントが開催された。角田勝之助「村の肖像 I、II」(砂丘館/新潟大学旭町学術資料展示館)、会田法行・渡辺英明「青き球へ」(新潟絵屋)、濱谷浩「會津八一肖像写真展」(北方文化博物館新潟分館)などである。このような試みを、今後も続けていってほしいものだ。

2014/08/31(日)(飯沢耕太郎)

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