artscapeレビュー

これからの写真

2014年09月15日号

会期:2014/08/01~2014/09/28

愛知県美術館[愛知県]

新井卓、加納俊輔、川内倫子、木村友紀、鈴木崇、鷹野隆大、田代一倫、田村友一郎。畠山直哉という本展の出品者の顔ぶれを見た時に、これで本当に「これからの写真」という展示が成立するのだろうかと疑問に思った。既に評価の高い写真家たちが多く、「これから」という未知の表現の可能性を提示できるとは思えなかったからだ。
だが、実際に愛知県美術館の会場に足を運んでみて、作家の人選、会場構成とも、とてもよく練り上げられた展覧会であると感じた。(キュレーションは同美術館学芸員の中村史子)。デジタル化とアート化の状況を踏まえつつ「写真を一面的な見方から解放する」という意図は、かなりうまく達成されていたのではないだろうか。従来の写真の見方は、「機械による記録か/芸術表現か」といった二分法的な思考に強く拘束されてきたのではないのかという問題意識に則り、本展ではその枠組みを解体/構築していくような作品が選ばれている。写真は「過去か/現在か」(新井卓)ではなく、「写真家か/被写体か」(鷹野隆大)でも、「二次元の作り物/三次元の現実」(加納俊輔)でも、「静止画/動画」(川内倫子)でもない。むしろその両方の極を行き来しつつ、それらの隙間から立ち上がってくるものなのだ。つまり「光源はいくつもある」。このキュレーションの視点は大いに共感できるものだった。
ところで、本展は思いがけない形で別な問題を孕むことになった。既に報道されている通り、鷹野隆大の出品作「おれと」の一部が、愛知県警から「わいせつ」ということで撤去するように警告を受け、結局作品を布で覆ったり、トレーシングペーパーをかぶせたりせざるを得なくなったのだ。要するに、展示作品における性器の露出に匿名の観客からクレームが寄せられ、それに警察当局が対応したということのようだ。むろん性器=わいせつという短絡的な考え方そのものがナンセンスだが、会場内に「全身ヌードを撮影した写真があり、鑑賞時、不快感を抱かれる方がおありかもしれません」という鑑賞者に充分配慮した表示があるにもかかわらず、このような事態に陥ったことに、強い憂慮を覚えないわけにはいかない。県警の介入に対する異議申し立ての動きも広がりつつある(http://www.change.org/p/愛知県警察本部-本部長-木岡保雅-殿-愛知県美-これからの写真-展-鷹野隆大さんの展示への不当介入の撤回)。事態の推移を見守っていきたい。

2014/08/21(木)(飯沢耕太郎)

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