artscapeレビュー

デス・プルーフ in グラインドハウス

2014年10月01日号

会期:2014/08/23~2014/08/31

新橋文化劇場[東京都]

名画座がまたひとつ消えた。JRの高架下に軒を連ねる新橋文化劇場・ロマン劇場が2014年8月31日をもって閉館した。終戦後の1950年代の開館以来、客席わずか81の小さな空間で上映される35ミリのフィルム映画を求めて、多くの来場者が訪れてきた。入れ替え制を採用するシネコンを尻目に、入場料900円で一日中過ごすことができるのも、人気のひとつだった。
最終週を飾ったのは、マーティン・スコセッシの『タクシードライバー』(1976)と、クエンティン・タランティーノの『デス・プルーフ in グラインドハウス』(2007)。いずれも、この映画館を自己言及的に暗示した、みごとなセレクションである。なぜなら、前者において不眠症に悩まされる主人公が夜な夜な通い詰めるのがポルノ映画館だからであり、後者の「グラインドハウス」とはB級映画館を意味しているからだ。それゆえ、来場者は映画の内と外をリンクさせながら、映画館で映画を鑑賞することの醍醐味を存分に味わうことができた。
とりわけ、すばらしかったのが『デス・プルーフ in グラインドハウス』。耐死仕様の車を使って次々と惨劇を繰り返すスタントマンの男と、その刃に襲われる女たちの物語だ。小気味よい音楽と冗長な会話劇という二面性は、これまでのタランティーノ映画と変わらない。けれども、映画の終盤からはじまる女たちの復讐劇は、フェミニズム映画とさえ言いたくなるほど、突出して痛快である。両手を突き上げて勝利を喜ぶラストシーンには、誰もが「どんなもんじゃい!」という熱い想いを重ねたにちがいない。
暗闇の中で見ず知らずの赤の他人と同じ映画を見るという経験。そして、たとえ一瞬だとしても、同じ気持を共有するという経験が、映画館で映画を見る最大の楽しみである。劇場がなくなった後も、この快楽は憶えておきたい。

2014/08/29(金)(福住廉)

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