2018年10月15日号
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artscapeレビュー

島尾伸三「Lesions/ じくじく」

2014年10月15日号

会期:2014/09/16~2014/09/27

The White[東京都]

島尾伸三の展覧会を見るのはかなりひさしぶりだ。ここ数年,以前の精力的な出版、展示活動のペースがやや鈍っているように感じていたのだが、今回の東京・神保町のギャラリー、The Whiteでの個展を見て、いかにも彼らしい独特の肌触りを備えた写真の世界が健在なのを確認することができた。
今回の出品作は、2007年から雑誌『野性時代』に、武田花と交互に隔月で連載していたシリーズを中心に選ばれている。タイトルの「じくじく」というのは、武田の「うじうじ」というタイトルに「対抗して」つけたものだという。「どうしてなのか、いつだって気分が高揚しないまま旅行を終えてしまいます。夕焼けさえ地獄の炎に見えるのです」という展覧会に寄せたコメントを読んでも、眼前の光景の片隅へ片隅へと視線を誘う、ひねりを効かせたカメラワークからも、島尾がたしかに瘡蓋から膿が「じくじく」と滲み出てくるような日常性に、徹底してこだわりつつシャッターを切っていることがよくわかる。だがそれらの写真を見続けていると、その自虐的な視線が何かを突き抜けて、軽やかな涅槃のような領域に達しつつあるのではないかとも思えてくる。島尾の写真は、自分で思っているほどネガティブなものではなく、見る者に奇妙な安らぎを与えてくれるのではないだろうか。今回は旅の写真が多いので余計そう感じるのかもしれないが、ある被写体から次の被写体へと、自然体ですっと眼が動いていく感触が、とても心地よく伝わってきた。
残念ながら展示には間に合わなかったのだが、12月頃に同名の「カラー240ページ」の写真集が刊行される予定だという。出来栄えが楽しみだ。

2014/09/17(水)(飯沢耕太郎)

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