2024年03月01日号
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artscapeレビュー

生誕140年 中澤弘光展─知られざる画家の軌跡

2014年10月15日号

会期:2014/09/12~2014/10/13

そごう美術館[神奈川県]

日本近代美術史に詳しい人でない限り、中澤弘光の名前は知らないだろう。ぼくも東京国立近代美術館にある日傘を差した女性像《夏》しか知らなかった。逆になんでこの作品を知ってるのかというと、かつて同館に務めていた本江邦夫氏がこの作品の「光」について熱く語っていたことがあるからだ。でもぼくには、手の大きさに比べて異様にデカイ顔や、画面右に偏った破格の構図が気になって「光」を十分に味わえなかった。そんなこともあってちょっと気になっていたのだ。中澤は東京美術学校などで黒田清輝に師事しただけあって、《夏》をはじめ光に満ちた(つまり白っぽい)絵が多い。白っぽいといっても、たとえば尼僧の前に観音が現れる《おもいで》は黄金色の光を放っているし、2人の田舎娘を描いた《まひる》は青を中心とした点描風だし、海辺で海苔を採る娘に天女が降りてくる《海苔とる娘》にはボナール風の華やぎがある。でも今回これだけ見せられて、光より目を引いたのは、油彩画の技法と日本的・土着的モチーフとのギャップだ。観音や天女もそうだが、晩年の《鶴の踊り》はほっかむりした和服の女性たちが田んぼでツルと一緒に踊ってるし、《誘惑》では修験道の行者のまわりに鬼や裸の美女が総動員で誘惑するなど、ほとんどお祭り状態。これが日本画ならまだ現実感が薄くて救われるが、油絵でリアルに描かれているので違和感がものすごい。もうひとつ、これも黒田の影響かもしれないが、生涯に何枚も舞妓の絵を描いてるのは、やはり油絵で日本的モチーフをわがものにしたかったからなのか。それとも単に女遊びが好きだっただけなのか。ともあれ、頻度は減ったものの、そごう美術館はたまにいいのをやる。

2014/09/13(土)(村田真)

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