artscapeレビュー

京版画・芸艸堂の世界

2014年12月01日号

会期:2014/10/25~2014/11/30

虎屋京都ギャラリー[京都府]

京版画の老舗、芸艸堂(うんそうどう)は明治24(1891)年に創業した。正確にいえばもう少し以前、明治20(1887)年に本田寿次郎が起こした本田雲錦堂と山田芸艸堂が合併して芸艸堂となった。さらに山田芸艸堂の創業者、山田直三郎はそれ以前に安政年間から続く田中文求堂に奉公していたというから、芸艸堂はまさに京都の手摺木版の正統な継承者といえよう。現在では、手摺木版和装本を刊行する出版社は日本でここ一社だけとなったそうだ。本展には、その芸艸堂の所蔵から神坂雪佳(1866-1942)の《海路》や《百々世草》をはじめ、名物裂を木版画で再現した《あやにしき》など、近代図案集の名作から出品されている。
 展示作品のなかでも、伊藤若冲(1716-1800)の「玄圃瑤華」は拓版という聞き慣れない技法で摺られている。墨を置いた版木に紙をのせてタンポでたたくように摺り上げる技法である。草花に虫類を配し白と黒の二色で構成された端正な画面には浮き彫りのような立体感が現われ、モチーフが硬く重い、錫や鉛のような、光沢感を帯びているかに見える。あわせて展示されている1、2センチほどの厚みの版木には、迷いのない正確さでたっぷりと凹部分が刻まれている。江戸時代の浮世絵と同様に、一枚の版画は、絵師、彫り師、摺師の共同作業によって成り立っていることがありありと伝わってくる。そして、職人たちの身体にいかに磨き上げられ研ぎすまされた感性が息づいていたかを知らされた。[平光睦子]

2014/11/11(火)(SYNK)

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