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国宝鳥獣戯画と高山寺

2014年12月15日号

会期:2014/10/07~2014/11/24

京都国立博物館[京都府]

2013年春に保存修理が完了した京都の高山寺に伝わる国宝の絵巻《鳥獣人物戯画》全四巻と高山寺にまつわる文化財が展示された特別展。会期中、《鳥獣人物戯画》は前期と後期で一部展示作品と展示場面の変更が行なわれた。私が訪れたのは後期の展示。噂には聞いて会場に足を運ぶ前から気構えていたが、到着した開館時刻にはすでに長蛇の列。入館まで「90分待ち」という看板表示を見て、館のゲート前でさっそくげんなりしてしまった。それからも続々と人々が押し寄せ、私が館内に入場する頃には外は「180分待ち」に。このような展覧会に来る度に、長い待ち時間はどうにかならないものなのかと思う。特に高齢者が多く見うけられた今展、寒い屋外で立ちっぱなしのお年寄りが気の毒で苛立たしさも募った。館内は想像したよりも混雑しておらず、わりとゆっくりと見ることができる資料もあった。個人的に特に興味を引かれたのは高山寺の中興の祖とされる明恵上人が40年にわたって書き記した《夢記》。来場者みんなが一番目当てにしていただろう《鳥獣人物戯画》甲・乙・丙・丁の四巻の展示ケース前はいずれもまた行列をつくっていて、さらに「立ち止まらずに進んでください」と近くに立つスタッフに大きな声で繰り返されるから酷いものだった。まるでベルトコンベアで流(さ)れるように絵巻の前を通り過ぎただけで、鑑賞どころか見たとすら言い難い。修理に至るまでは別の絵巻を繋いだものと考えられていた丙巻の前半と後半は、もともとは一枚の紙の表と裏に描かれており、表裏二枚に剥がされた後に一枚に繋ぎ直されたものであることが明らかになったという。この修理に際する新発見を解説した会場のパネル展示も興味深く、実物を目にするのを楽しみに待っていたのに残念。全体に見応えのある内容だったはずだが、虚しさの方が強かった展覧会。


公式サイト:http://chojugiga-ten.jp/

2014/11/12(酒井千穂)

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