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京都老舗の文化史──千總四六〇年の歴史

2015年02月01日号

会期:2015/01/06~2015/02/11

京都文化博物館[京都府]

京都といっても、これほどまでに由緒をとどめる商家はさほど多くはあるまい。京友禅の老舗、千總の歴史を紹介する展覧会。千總の歴史は、桓武天皇平安遷都の際に御所造営にかかわった宮大工にまで遡ることができるという。応仁の乱のあと京都に戻って法衣商をはじめたのが460年前のことで、千總の名は1669年に室町三条で法衣商を開業した千切屋与三右衛門の孫、千切屋惣左衛門に由来する。千總現会長、西村總左衛門氏は15代目というのだから驚くほかない。本展では、その歴史を物語る文書や系図などの多彩な資料をはじめ、ひな形や図案、法衣や小袖などが展示されている。1月20日以降には、博物館もよりの千總ギャラリーを第二会場にも展示が拡張される。
優れた衣装は、時に、美術品として鑑賞の対象とされる。本展においても、「秋草筒井筒文様小袖」や「鵜飼文様小袖」など、当代最高レベルの染織技法を駆使して「伊勢物語」や謡曲、能楽などから引いた文様を巧みに描いた逸品の数々は見応え十分である。明治期には名だたる画家たちが図案を手がけた工芸品が国内外の博覧会に出品されたことが知られているが、その流れを先導したひとりが12代西村總左衛門であり、本展でも岸竹堂や今尾景年、榊原文翠、望月玉泉らの作品を見ることができる。
しかしながら、あらためて家業としての歴史のなかでみなおすと美術品とは異なる側面が見えてくる。もともと千總の家業であった法衣商という仕事は、御装束師ともよばれるという。公家の儀式や行事、調度や文芸、料理や装束といったことに関わる広範な知識と規範を有職故実というが、装束師の仕事はその有職故実に則って装束を整えることだった。有職故実とは、いってみれば公家社会における秩序や常識である。時代を超えて伝え継がれ時代の流れのなかで変化する秩序や常識、それらにあわせて衣装を調整することが、代々つとめあげてきた千總の役割だったのである。[平光睦子]

2015/01/15(木)(SYNK)

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