artscapeレビュー

衣服にできること──阪神・淡路大震災から20年

2015年03月01日号

会期:2015/01/17~2015/04/07

神戸ファッション美術館[兵庫県]

「3.11」からまもなく4年、また阪神・淡路大震災から20年を経た今年、神戸ファッション美術館で「災害時に衣服に何ができるか」について考えさせる特集展示が行なわれている。際立っていたのが、衣服造形家/眞田岳彦氏が手掛けたデザイン。2005年の新潟県中越地震を契機につくられた「Prefab Coat(プレファブコート)」シリーズと、震災を経験した神戸の人々にインタビューをして製品に活かした新作「Prefab Coat Rice KOBE(プレファブコート・ライス神戸)」。プレファブコートの数種のラインは、着衣だけでなく、多様な用途に対応できる衣服である。広げた見かけは一枚のビニールシートだが、その名の通り組み立て式コート。ファスナーを繋ぎ合わせればテントやプライバシーを守るパーテーションにもなる。被災者がそれを纏うことによって身を守るだけでなく、服から物を入れるバックへ変化するコートもある。ISSEY MIYAKE勤務を経て、英国の彫刻家リチャード・ディーコンの助手を務め、彫刻・造形を学んだ人らしい、造形思考が見て取れる。さらに心のケアまでも考えられている。たとえばPTSDの子どもの心を癒すパペットがポケットに準備されたコート。臨床心理士用のコートは、公にはジャケットとしても使えるが、帽子には動物の愛らしい形が模されるなど。「プレファブコート・ライス」は、日本産米を含有した半透明のシートからできている。これも道具として、寝袋や敷物になったり、寒さをしのいだりできる。かすかにお米の安らぐような香りがするから、日本人の奥深い心性まで考慮されている。もうひとつは、津村耕佑氏が手掛ける「FINAL HOME」。「家を失ったとき最後に人を守るのは服である」という考えから、ナイロン・コートにはたくさんのポケットがついている。新聞紙や布を入れれば防寒になるし、非常食や医療具など必要具を入れて避難することができる。生きるためのデザインからお互いの心を繋ぐデザインまで、衣服のもつ可能性に強く心を動かされた。[竹内有子]

2015/02/20(金)(SYNK)

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