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チャングムが生きた時代──女性たちの生活と服

2015年03月01日号

会期:2014/01/08~2015/03/29

高麗美術館[京都府]

テレビドラマ『宮廷女官チャングムの誓い』は、李王朝につかえる女官、チャングムが宮廷料理人から医女になり王の主治医にのぼりつめるまでを描いた人気歴史ドラマである。次々にふりかかる難題に猛然と立ち向かう主人公の姿を手に汗握る思いでみていた人もいるだろう。本展はドラマの舞台となった朝鮮王朝の宮廷文化を伝える展覧会。第一部「女性の生活と服」、第二部「心と身体と飲食」、第三部「婚礼衣装に身をつつんで」からなる三部構成。二室にわかれた会場には、チマ、チョゴリ、唐衣などの衣装を中心に、座卓や屏風などの室内装飾品、陶磁器や文献などの医学関係の資料などがところせましと展示され、当時の優雅な宮廷生活を伝えている。なかでも男女の婚礼衣装の華やかさは圧巻である。
展示された衣装はいずれも復元品。14世紀終わりから20世紀初頭までおよそ500年つづいた朝鮮時代、王族や貴族は儒教の教えに則って土葬にされ、遺体を二重、三重に衣装で覆って埋葬する習慣があったという。遺物に忠実に復元されたとはいってもどの墓から発掘された誰の衣装の復元なのかといった詳しい解説がないこともあって、展示品はテレビドラマに登場した宮廷衣装のイメージそのままにただただ鮮やかで美しい。チョゴリ(上着)はより短くタイトに、チマ(スカート)はより高い位置から着られるように、時代をおって衣装の形が少しずつ変化していく様子がわかるように展示が工夫されており、ゆるやかだが確かな生活の変化が見てとれる。また男女が厳格に区別されるなか、刺繍は女性たちが腕を磨き個性を発揮する数少ない機会であったという。胸背といわれる男性の官服を飾った豪華な刺繍には、それを施した女性たちの気迫のようなものがこめられている。そのほか、胸飾りや髪飾り、化粧容器や裁縫道具など、豪華だがどこか素朴で控えめな品々には朝鮮文化特有の柔らかで優しい雰囲気が感じられる。
ところで、会場となった高麗美術館は在日朝鮮人一世の鄭詔文氏によって在日の若い世代に祖国の歴史や文化を普及するために創設された美術館である。望郷の思い、そして次世代を思いやる優しさが会場にも漂っていた。[平光睦子]

2015/02/18(水)(SYNK)

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